2002年ノーベル物理学賞(2)

受賞理由

宇宙X線源の発見を導いた天体物理学への先駆的貢献

受賞者

リカルド・ジャコーニ
リカルド・ジャコーニ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

夜空の星は目に見える光だけでなく、「X線」というとても強い光も出しています。 X線は地球の空気で止まってしまうので、地面からは見えません。 ジャコーニさんはロケットや人工衛星にカメラを乗せ、宇宙から直接X線を集める方法を考えました。 1962年に最初の実験で「さそり座X-1」というとても明るいX線の星を見つけました。 その後も多くの観測衛星を作り、見えないX線の世界を写真にしてくれました。 これによって、ブラックホールや超新星の破片など、激しい宇宙の姿を私たちは知ることができるようになりました。

関連キーワード

X線天文学

X線天文学は、0.1–100 keV帯の電磁波を観測し、高温プラズマや強重力場の現象を研究する分野です。 大気吸収のため観測機器は高度30 km以上の気球、ロケット、人工衛星に搭載されます。 1960年代の実験的発展以降、全天サーベイと高解像度望遠鏡が整備され、数十万個のX線源がカタログ化されました。 ブラックホール、パルサー、銀河団ガスなどの物理状態を、放射スペクトルの温度や金属量、時間変動から解析します。 近年はマルチメッセンジャー連携で重力波源のX線追跡観測が行われ、宇宙の暴れん坊たちを総合的に理解する鍵となっています。

スコーピウスX-1

スコーピウスX-1はさそり座方向にある銀河系内で最も明るい持続型X線源です。 1962年のジャコーニらのロケット実験で発見され、X線天文学の幕開けを象徴する天体となりました。 可視光では16等級の微光星であり、X線で1 keV付近10^-7 erg cm^-2 s^-1以上のフラックスを示します。 現在では低質量X線連星で、太陽質量1.4倍の中性子星に伴星から物質が降着していると解釈されています。 観測されるkHz QPOや熱的スペクトルは、一般相対論的重力場とプラズマ物理の研究試験場として重要です。

UHURU衛星

UHURU(スワヒリ語で「自由」)は1970年に打ち上げられた世界初の本格的X線天文衛星です。 回転するコリメータ付き比例計数管により、2–20 keV帯で全天をスキャンしました。 3年間の運用で4Uカタログとして約300個のX線源をリスト化し、連星、中性子星、活動銀河核などの統計研究を可能にしました。 観測結果はX線源の時変動とスペクトルタイプの分類に用いられ、以後の衛星計画の設計指針となりました。 UHURUで培われたデータ解析手法は今日のeROSITAやAthena計画にも引き継がれています。

チャンドラX線観測衛星

チャンドラは1999年にNASAが打ち上げた高解像度X線望遠鏡で、角分解能0.5アーク秒を達成しています。 4本の高精度ウォルターミラーとACIS/HRC検出器により、0.1–10 keV帯で鋭い画像と分光を同時に取得できます。 超新星残骸の微細構造から遠方クエーサーのジェットまで、多様な天体のエネルギー放出機構を解明してきました。 銀河団ガスの温度マップ作成により、宇宙のダークマター分布や宇宙論パラメータの制約に大きく貢献しています。 25年以上経た今も卓越した分解能を保ち、次世代観測計画の性能基準となっています。

X線連星

X線連星は、コンパクト天体(中性子星またはブラックホール)と通常の恒星が互いに軌道を周回する系です。 伴星から流れ込むガスがコンパクト天体周囲に降着円盤を形成し、摩擦加熱されて数千万度の高温となりX線を放射します。 ガス流の不安定性により光度が数秒から数日周期で変動し、質量交換や磁場構造の診断に利用されます。 X線連星は重力波源や超新星残骸の観測にも関連し、高エネルギー天体物理の総合的理解を支えています。 ジャコーニの衛星観測はこのクラスの天体を多数発見し、パルサーの周期測定やブラックホール候補の質量推定を可能にしました。

アクリーションディスク

アクリーションディスクは、重力に引かれて落ち込む物質が角運動量保存の結果として円盤状に広がる構造です。 円盤内の粘性や磁気乱流で運動エネルギーが熱に変換され、中心に近づくほど温度が上がりX線やUVを放射します。 ブラックホールや中性子星への降着円盤は、宇宙で最も高効率なエネルギー解放機構の一つで、光度がE=ηṀc^2(η~0.1)に達します。 QPOやバースト、スペクトル遷移など多彩な時間変動が観測され、相対論的効果や磁気流体力学の研究対象となっています。 Giacconiらの観測はアクリーション物理を裏付け、多波長データと合わせてディスクの構造・進化モデルを洗練させました。

同年の他の受賞業績