2011年ノーベル物理学賞
受賞理由
遠方の超新星の観測を通した宇宙の加速膨張の発見(Astrophys. J.:517(1999) 565-586/Astrophys. J.:507(1998) 46-63/Astron. J.:116(1998) 1009-1038)
受賞者
アメリカ合衆国
オーストラリア,
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
宇宙はふくらむ風船のように広がっていますが、今回の研究でそのふくらみ方がだんだん速くなっていると分かりました。研究者たちはとても遠くで起こる「超新星」という星の大爆発の明るさをものさしにしました。超新星がどれだけ暗く見えるかで距離をはかり、その動きを調べたところ、予想より遠くにあり広がりが加速していることが分かったのです。この加速を生み出す正体は「暗黒エネルギー」と呼ばれていますが、まだなぞのままです。身近なたとえで言うと、坂道を転がるボールが途中から急にスピードを上げるようなイメージです。
関連キーワード
超新星
超新星は星が寿命を迎えて大爆発を起こす現象で、一瞬で銀河全体に匹敵する明るさを放ちます。タイプIa超新星は白色矮星が一定質量に達したときに起こるためピーク光度がほぼ一定です。そのため遠距離でも標準光源として距離測定に用いることができます。光度曲線の形を補正することで距離精度は10%程度まで向上します。超新星観測は宇宙膨張の歴史を調べる強力な手段となっています。
加速膨張
観測によると宇宙は単に膨張しているだけでなく時間とともに膨張速度が増しています。これはフリードマン方程式の右辺に負圧を持つ項が存在することを意味します。超新星以外にもバリオン音響振動や宇宙背景放射のデータがこの結果を裏付けています。加速膨張は未来に銀河が視界から消える“ビッグフリーズ”シナリオを導きます。物理学者にとっては重力理論や量子真空の理解を揺るがす大きな謎です。
暗黒エネルギー
暗黒エネルギーは宇宙のエネルギー総量の約70%を占めると推定される未知の成分です。最も単純なモデルは宇宙定数Λで、密度が時間に依存しない負圧の真空エネルギーとして振る舞います。別の可能性としてスカラー場によるキンタセンスや修正重力理論が研究されています。観測的には方程式状態パラメータwが−1にどれだけ近いかが焦点で、現在は誤差±0.05程度で測定されています。暗黒エネルギーの正体解明は21世紀宇宙論最大のテーマの一つです。
標準光源
標準光源とは絶対光度が既知で距離指標として用いられる天体を指します。セファイド変光星が近距離測定に用いられる一方、タイプIa超新星はより遠方の宇宙スケールに適用されます。重要なのは明るさの校正で、光度曲線や色指数を用いて個々の天体差を補正します。複数の標準光源を段階的に用いることで“宇宙距離梯子”が構築されます。この梯子がハッブル定数や宇宙年齢の測定精度を決定づけます。
観測宇宙論
観測宇宙論は天体観測データを用いて宇宙の起源・構造・進化を解明する学問分野です。超新星測光、CMB観測、銀河サーベイ、重力レンズ測定など多様な方法が相補的に利用されます。精密観測の進展によりΛCDMモデルが標準像として確立しましたが、暗黒エネルギーやインフレーションなど未解決問題も多く残ります。統計解析、機械学習、ビッグデータ処理が研究の鍵となっています。将来の広視野望遠鏡や宇宙ミッションはパラメータ誤差を数%レベルまで縮めることが期待されています。
ハッブル定数
ハッブル定数H₀は現在の宇宙膨張率を示す基本パラメータで、単位はkm s⁻¹ Mpc⁻¹で表されます。近年の局所宇宙測定(例えばセファイド+SNe Ia)とCMBからの間接推定(Planck)で10%を超える張力が報告され“ハッブルテンション”と呼ばれています。定数の値は宇宙の年齢やダークエネルギーの性質に直結します。時間遅延重力レンズやバリオン音響振動による独立測定が緊張緩和の鍵とされています。加速膨張の発見もハッブル定数測定法の精緻化を後押ししました。