2019年ノーベル物理学賞(1)
受賞理由
物理宇宙論における理論的発見
受賞者
アメリカ合衆国
解説
宇宙は大きな爆発で始まったと考えられています。ピーブルスさんは、その後の膨張や星・銀河ができる仕組みを数式で調べました。彼は“宇宙の光の化石”と呼ばれる電波(宇宙マイクロ波背景放射)を手がかりに、宇宙にどんな材料がどれだけあるかを読み取りました。その結果、私たちの目に見える物質は宇宙全体のごく一部にすぎないと分かりました。残りは暗い物質や暗いエネルギーという、不思議なものが占めているのです。
関連キーワード
宇宙マイクロ波背景放射
ビッグバン後38万年で放たれた光が現在ミリメートル波まで引き伸ばされたものです。温度ゆらぎは10万分の1の精度で測定され、宇宙の年齢や組成を決定する鍵となります。ピーク構造はバリオン音響振動を反映し、ダークマターとバリオンの割合を分離して推定できます。偏光モードの解析により、インフレーション起源の重力波の痕跡を探ることも可能です。CMBは現代宇宙論で最も豊富な情報源といえます。
ダークマター
銀河の回転速度や重力レンズ効果でその存在が示される、光を出さない物質です。宇宙全体の26%を占めると見積もられます。ピーブルスは“冷たい”暗黒物質というシナリオを提唱し、質量が重く速度が遅い粒子が構造形成を助けると考えました。現在、地下実験や加速器実験で候補粒子(WIMP、アクシオンなど)が探索されています。ダークマターの正体解明は天文学と粒子物理学の大きな課題です。
ダークエネルギー
宇宙の加速膨張を引き起こす、負の圧力をもつ未知のエネルギー成分です。全エネルギー密度の約69%を占めるとされています。ピーブルスはアインシュタインの宇宙定数Λを理論的に復活させ、ダークエネルギーの候補と位置づけました。超新星Iaの観測で加速膨張が確認され、ΛCDMモデルが標準となりました。ダークエネルギーの物理的起源は量子真空か新しい場か、今も議論が続いています。
ΛCDMモデル
現在の標準宇宙論で、Λ(ダークエネルギー)とCDM(冷たい暗黒物質)、バリオン、ニュートリノ、光子で宇宙を記述します。6個程度のパラメータでCMBや銀河分布、レンズ効果を高精度に説明できます。ピーブルスの理論はこのモデルの骨格を形作りました。観測ごとに得られるパラメータ整合性はモデルの妥当性を示しています。一方、ハッブル定数の緊張など未解決問題も残ります。
バリオン音響振動
初期宇宙の光と物質の音波が凍結した痕跡で、約1億光年の標準尺を提供します。銀河分布に見られるピークは宇宙の膨張史を測る“ものさし”となります。ピーブルスは音響ピーク理論を構築し、CMBと大規模構造を結びつけました。BAO測定はダークエネルギーの状態方程式を制限する重要ツールです。DESIやEuclidなど次世代サーベイが精度向上を目指しています。