1908年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
免疫の研究
受賞者
ロシア帝国
ドイツ帝国
解説
私たちの体の中には、ばい菌やウイルスから守ってくれる「免疫」という仕組みがあります。メチニコフは小さなヒトデの幼生を観察して、白血球がばい菌を飲み込む様子を発見しました。これはゴミを掃除する掃除機のような働きです。一方、エールリヒは血液の中に「抗体」という特別なたんぱく質がいて、ばい菌にくっついて動けなくすることを示しました。二人の発見により、体には細胞が食べて守る方法と、液体がばい菌をつかまえる方法があることが分かりました。今のワクチンや病気の検査は、この免疫のしくみを利用しています。
関連キーワード
食作用
食作用は細胞が固体の粒子を抱え込み消化する現象です。好中球やマクロファージなどの食細胞が病原体を取り込むことで感染初期の防御が行われます。取り込まれた病原体はリソソームと融合した食胞内で加水分解酵素や活性酸素によって分解されます。過程にはToll様受容体などのパターン認識受容体が標的認識を補助します。メチニコフの発見以降、食作用は免疫だけでなく細胞死の後処理や組織再生にも重要であることが分かりました。
抗体
抗体はB細胞から分泌されるY字型のタンパク質で、特定の抗原と高い特異性で結合します。エールリヒの側鎖説は抗体が細胞膜受容体の放出物であると仮定し、多様性の概念を先取りしました。現在では可変領域の遺伝子再編成と体細胞突然変異が多様性を生み出すことが分かっています。抗体は中和、オプソニン化、補体活性化など多彩なエフェクター機能を持ちます。診断薬や抗体医薬として臨床で広く用いられている分子です。
自然免疫
自然免疫は生まれつき備わる防御システムで、食細胞や補体、インターフェロンなどが含まれます。病原体由来のPAMPsを識別し、迅速に炎症や防御反応を開始します。メチニコフの食作用研究は自然免疫の細胞的基盤を明示しました。獲得免疫に比べ特異性は低いものの即時性と汎用性に優れます。近年は自然免疫の記憶様現象である「訓練免疫」が注目されています。
獲得免疫
獲得免疫は抗原に応じて特異的に発達する防御機構で、T細胞とB細胞が中心です。エールリヒの研究は抗体を介した体液性免疫の概念を定式化し、後にT細胞依存性免疫と統合されました。獲得免疫は記憶を形成し、同じ病原体に再度出会った際には迅速かつ強力に応答します。ワクチンはこの性質を利用して感染症を予防します。不適切な獲得免疫応答はアレルギーや自己免疫疾患を引き起こすこともあります。
側鎖説
側鎖説はエールリヒが提唱した免疫の分子モデルです。彼は細胞表面にある「側鎖」に毒素が結合すると、それが大量に放出され抗毒素(抗体)になると考えました。このモデルは免疫応答の特異性、多様性、増幅を説明しました。後に抗体遺伝子再編成の発見により側鎖説の核心部分が裏付けられました。抗原受容体概念の原点として歴史的に重要です。
マクロファージ
マクロファージは骨髄系に由来する大型の食細胞で、組織常在性と遊走性の集団が存在します。メチニコフはマクロファージを「体の警備隊」と呼び、病原体の貪食だけでなく細胞残骸の除去にも重要と述べました。現在ではサイトカイン産生、抗原提示、組織修復といった多面的機能が知られています。M1/M2極性や腫瘍関連マクロファージの研究はがん治療の標的として注目されています。CRISPRでマクロファージを再プログラムする技術は次世代免疫療法への応用が期待されています。
補体系
補体系は血清中に存在する30種以上のタンパク質からなる酵素カスケードです。エールリヒは抗体だけでは溶血が起こらないことから熱不安定な「補体」の存在を示しました。古典経路、レクチン経路、代替経路が活性化し、膜攻撃複合体を形成して病原体膜に孔を開けます。補体はオプソニンとして食作用を促進し、炎症メディエーターも産生します。補体系の欠損や過剰活性は自己免疫や炎症性疾患の原因となり、補体阻害薬が臨床で注目されています。
魔法の弾丸
「魔法の弾丸」はエールリヒが提唱した、病原体だけを狙い撃つ薬剤という概念です。彼は化学合成したアーセニル化合物サルバルサン(606号)を開発し、梅毒治療に革命をもたらしました。これは近代化学療法の嚆矢とされ、選択毒性の指標である化学治療指数が導入されました。この概念は抗菌薬から分子標的薬、抗体薬物複合体に至るまで医薬品設計の基本思想となっています。抗がん剤や抗体医薬のターゲティング技術は魔法の弾丸の発想を継承しています。