1909年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

甲状腺の生理学、病理学および外科学的研究

受賞者

エーミール・コッハー
エーミール・コッハー

スイススイス

解説

首の前にある小さな「甲状腺」は、体を元気にするエネルギーのジュースを作る工場のようなものです。コッハー先生は、この工場がうまく働かないと人がどうして病気になるのかを調べました。昔は甲状腺が大きく腫れると、手術の途中でたくさん血が出て命を落とす人が多くいました。先生は安全に血を止めながら手術する方法を考え出し、多くの人を助けました。だから私たちは今、甲状腺の病気になっても安心して治療を受けられます。

関連キーワード

甲状腺

甲状腺は気管の前にある蝶の形をした内分泌器官です。ヨウ素を取り込み、チロキシン(T4)やトリヨードサイロニン(T3)を分泌して体温・心拍・成長を調節します。ホルモンが不足するとだるさや発育遅延が、過剰だと動悸や体重減少が起こります。19世紀まではその働きが不明でしたが、コッハーの術後観察により内分泌器官であることが明確になりました。現在も血液検査と画像診断で機能を評価し、薬物や手術で治療します。

チロキシン

チロキシンは甲状腺で作られるアミノ酸由来ホルモンで、血中では主にT4の形で存在します。体内でT3に変換され、核内受容体を介して代謝関連遺伝子を活性化します。1915年のKendallらによる単離以前に、コッハーは全摘後症状からその存在を示唆しました。今日では合成チロキシンが甲状腺機能低下症治療の第一選択薬です。投与量はTSH値の定期測定で個別調整されます。

甲状腺腫

甲状腺腫は甲状腺が腫れて視診や触診で分かる状態を指します。原因にはヨウ素不足、自己免疫疾患、結節の増殖などがあります。コッハーはアルプス地方のびまん性甲状腺腫を安全に切除する技術を確立し、死亡率を大幅に下げました。巨大甲状腺腫は気管圧迫や嚥下障害を起こすため、現在でも外科的治療が必要となる場合があります。超音波や細胞診による鑑別が治療計画の鍵です。

クレチン症

クレチン症は胎児期や新生児期の甲状腺機能低下で知的障害や低身長を来す疾患です。内陸部のヨウ素欠乏地域でかつては高頻度に見られ、公衆衛生上の大問題でした。コッハーは甲状腺欠損と症状の関連を報告し、治療的補充の必要性を示しました。現在は新生児スクリーニングとホルモン補充で予防・治療が可能です。食塩へのヨウ素添加も世界的な罹患率低下に貢献しています。

甲状腺摘出術

甲状腺摘出術は良性腫大、バセドウ病、甲状腺がんなどの治療として行われる外科手技です。コッハーは層状剥離、鉗子止血、反回神経の同定という基本原則を確立しました。現代では神経モニタリングや内視鏡・ロボット支援技術が導入され、さらに低侵襲化が進んでいます。術後の甲状腺機能低下や副甲状腺損傷を防ぐため、残存組織と血流の温存が重要です。術前画像評価と術後ホルモン管理が合併症低減の鍵となります。

無菌操作

無菌操作は手術野を微生物から守り感染を防ぐ一連の方法です。Listerのカルボン酸消毒を基盤に、コッハーは甲状腺手術へ厳格に適用しました。血流が豊富な甲状腺領域での感染制御は死亡率低減に直結しました。現在の手術室では手洗い、滅菌器具、空調管理、抗菌薬投与が標準化されています。無菌操作は外科のあらゆる分野で不可欠な基本概念です。