1931年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
呼吸酵素の特性および作用機構の発見
受賞者
ドイツ国
解説
わたしたちの体の中の細胞は、食べ物からエネルギーを作るときに酸素を使います。オットー・ワールブルク博士は、そのとき働く「呼吸酵素」という小さな助っ人がいることを証明しました。博士は特別なびんで細胞がどれくらい酸素を吸うかを測る実験を行いました。その結果、呼吸酵素が酸素を受け取ってエネルギーづくりを手伝っていることがわかりました。この発見は病気の研究や薬づくりにも役立っています。
関連キーワード
呼吸酵素
呼吸酵素はワールブルクが名付けた用語で、細胞内で酸素を電子受容体として利用する酸化還元酵素群を指す。主にヘムを含むシトクロムa/a3が該当し、鉄イオンの価数変化によって電子を伝達する。酸素を四電子で還元して水を生成し、その過程でプロトン勾配形成を介してATP合成を駆動する。現代の分類ではミトコンドリア複合体IV(シトクロムcオキシダーゼ)に相当する。ミトコンドリア病や虚血障害では呼吸酵素活性の低下がエネルギー不足の原因となる。
シトクロム
シトクロムは鉄を含むヘムタンパク質で、細胞呼吸における電子運搬体として働く。酸化型と還元型で可逆的に吸収スペクトルが変化することが特徴で、ワールブルクとケイリンによりその存在が明確化された。c、b、a など複数のタイプがあり、それぞれの酸化還元電位が階段状に並んで電子を順次受け渡す。シトクロムcは水溶性でミトコンドリア膜間腔を拡散し、シトクロムbやaは膜固定型で電子伝達鎖に組み込まれる。近年の構造解析により、各シトクロムのヘム周辺のアミノ酸配置が電子移動速度を微調整していることが明らかになった。
酸化的リン酸化
酸化的リン酸化は電子伝達鎖によって作られたプロトン濃度勾配を利用し、ATPシンターゼがADPと無機リン酸からATPを合成する過程を指す。ワールブルクの呼吸酵素研究はこの機構の出発点となり、後にミッチェルの化学浸透説で理論化された。反応はミトコンドリア内膜で起こり、NADHやFADH2から供与された電子が複合体I→III→IVを通過して酸素に受け渡される。プロトン駆動力(Δp)がATP合成エネルギー源であり、その破綻は乳酸アシドーシスや神経疾患を招く。近年は複合体超構造やサブコンプレックスの動的再編成が注目されている。
ワールブルグ装置
ワールブルグ装置は閉鎖系マノメーターと恒温水槽から成る実験器具で、試料の呼吸に伴うガス圧変化を測定できる。試料容器、気体平衡液、バロメーター液が三分岐フラスコに配置され、酸素消費や二酸化炭素発生をμmolレベルで定量可能にした。装置は反応温度を一定に保ち、小さな組織片やミトコンドリア懸濁液でも高感度測定が可能だった。呼吸阻害剤の影響評価や光合成速度測定にも応用され、生化学研究を大きく前進させた。現在は酸素電極や蛍光プローブに取って代わられたが、代謝研究史の象徴的な機器である。
ワールブルグ効果
ワールブルグ効果はがん細胞が酸素存在下でも解糖を過度に行い乳酸を産生する現象を指す。ワールブルクは腫瘍組織で正常細胞より低い呼吸速度と高い解糖速度を観測し、代謝リプログラミングの概念を提唱した。後の研究で転写因子HIF-1やPI3K-AKTシグナルがこの代謝シフトを誘導することが判明した。PET診断で使われる18F-FDG集積はワールブルグ効果の臨床応用例であり、治療効果判定にも用いられる。近年はミトコンドリア機能との相互作用や免疫環境への影響が注目され、新規抗がん剤の標的となっている。