1934年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

貧血に対する肝臓療法に関する発見

受賞者

ジョージ・H・ウィップル
ジョージ・H・ウィップル

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジョージ・リチャーズ・マイノット
ジョージ・リチャーズ・マイノット

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ウィリアム・P・マーフィ
ウィリアム・P・マーフィ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体には赤い血のもとになる「赤血球」があり、これが少なくなると元気が出なくなる「貧血」になります。ウィップル博士たちは、病気の犬に肝臓を食べさせると赤血球が増えることを確かめました。そして人でも、肝臓を食べることで重い貧血が良くなるとわかったのです。これは、体に大事な栄養が肝臓にたくさん入っているからだと説明しました。今では薬やサプリメントで補えますが、当時はとても画期的な治療でした。

関連キーワード

貧血

血液中の赤血球数やヘモグロビン濃度が基準値より低い状態を指す。酸素運搬能力が低下し、疲労感、動悸、息切れなどの症状を引き起こす。原因は出血、栄養不足、造血障害、溶血など多岐にわたる。ウィップルらの研究は栄養性貧血の治療法に新しい道を開いた。現代では血液検査と骨髄検査により病型を詳細に分類し、それぞれに特化した治療を行う。

悪性貧血

自己免疫性胃炎により内因子が欠乏し、ビタミンB12が吸収できなくなる巨赤芽球性貧血の一種。20世紀初頭には死の病と恐れられていた。肝臓療法は初の有効治療として患者の生命予後を劇的に改善した。その後、B12注射が標準治療となり、予後は良好となった。研究は自己免疫疾患と吸収障害の概念確立にも寄与した。

肝臓療法

大量の動物肝臓を食事として投与し、造血を刺激する治療法。ウィップルの犬モデル実験を臨床応用したマイノットとマーフィにより確立された。治療が有効であることはビタミンB12や鉄などの造血因子の存在を示唆し、栄養素特定の契機となった。生肝摂取の負担や衛生面の問題から、後に肝抽出物や精製B12製剤へと置き換えられた。歴史的にみるとEBMの嚆矢と評価されている。

ビタミンB12

コバルトを中心に持つコリノイド構造を持つ水溶性ビタミン。メチオニン合成やヌクレオチド合成に必須で、欠乏すると巨赤芽球性貧血と神経障害を起こす。1948年に肝抽出物から単離され、1956年にHodgkinが構造を決定した。現在は注射剤や経口剤として臨床で幅広く用いられる。ウィップルらの肝臓療法研究が発見の大きな手がかりとなった。

骨髄造血

骨髄内で造血幹細胞が分裂・分化して赤血球、白血球、血小板を産生する過程。鉄、B12、葉酸などの栄養素とエリスロポエチン、サイトカインの調節を受ける。ウィップルの研究は栄養素が造血能に直接影響することを示し、造血生理の理解を深めた。現在、骨髄穿刺やフローサイトメトリーで詳細な評価が行われ、白血病治療や造血幹細胞移植に応用されている。造血の失調は貧血、好中球減少、血小板減少など多彩な臨床症状を引き起こす。

鉄代謝

鉄はヘモグロビンやシトクロムに含まれる必須金属で、吸収・輸送・貯蔵が厳密に制御される。肝臓はフェリチンとして鉄を貯蔵し、必要に応じて放出する。ウィップルは肝臓摂取が出血後の鉄回復を促進することを示したため、鉄と造血の関係が注目された。ヘプシジンの発見により鉄恒常性の分子機構が解明され、鉄欠乏性貧血や鉄過剰症の治療につながっている。臨床では血清フェリチン、トランスフェリン飽和度、可溶性トランスフェリン受容体測定が診断に用いられる。