1938年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
呼吸調節における静脈洞と大動脈機構の役割の発見
受賞者
ベルギー
解説
私たちが息をするとき、体の中には“見張り番”のようなセンサーがあります。ハイマンス博士は、そのセンサーが首の太い血管(頸動脈)と胸の大きな血管(大動脈)にあることを発見しました。このセンサーが「酸素が足りないよ」と脳に伝えると、脳は息を速くしたり深くしたりして体を助けます。つまり、博士は“体が息をする仕組み”の大切な秘密を明らかにしたのです。
関連キーワード
頸動脈洞
頸動脈分岐部のわずかな膨らみで、血圧変化を感知する圧受容器と酸素・二酸化炭素濃度を検出する化学受容器を併せ持つ。感覚情報は主に舌咽神経を介し延髄の孤束核へ伝えられる。ここで解析された信号は迷走神経・交感神経活動を変化させ、呼吸数や心拍数を数秒以内に調節する。頸動脈洞マッサージは臨床で頻脈性不整脈の反射的抑制に用いられるなど、基礎研究から治療手技へ展開された好例である。
大動脈小体
大動脈弓付近に散在する小さな塊で強力な化学受容機能を持つ。血中の酸素低下やpH変動に鋭敏で、その興奮は迷走神経求心路を通じて呼吸中枢へ伝達され、換気量を増やす。頸動脈洞切除後も化学受容反応が残存することから、その補完的役割が注目された。慢性閉塞性肺疾患や新生児無呼吸症候群における病態生理の鍵構造として研究が続く。
化学受容器
血液や組織液中の化学成分を検知する感覚装置。末梢では頸動脈小体・大動脈小体、中枢では延髄腹外側面に存在する。低酸素、高二酸化炭素、アシドーシスを素早く検知し、換気駆動の主因となる。高地登山時の呼吸促進や睡眠時の呼吸リズム維持に欠かせない生理メカニズムである。
圧受容体
動脈壁の伸展を感じ取り、血圧をリアルタイムに監視する機械受容器。頸動脈洞と大動脈弓に集中し、求心信号は心臓迷走神経反射を介して心拍数・血管抵抗を制御する。高血圧の発症機序や姿勢変換時の血圧保持に不可欠で、人工バロリフレックス装置の開発にも寄与している。
呼吸中枢
延髄‐橋に広がる神経ネットワークで、吸気・呼気のリズムを生成する。化学受容器や高次脳からの入力を統合し、横隔膜や肋間筋へ指令を出す。薬物や疾患による抑制は呼吸停止を招くため、集中治療ではその機能モニタリングが必須となる。
舌咽神経
脳神経IX。味覚や嚥下に関与すると同時に、頸動脈洞・頸動脈小体からの求心線維を運ぶ経路でもある。これにより、化学・圧受容反射が延髄に伝えられ、呼吸・循環調節が行われる。神経障害はバロレフレックス低下や誤嚥を引き起こす。
迷走神経
脳神経X。副交感線維として心拍抑制・胃腸運動促進を司る一方、大動脈小体・大動脈弓からの求心情報を伝える。刺激療法は難治性てんかんやうつ病治療にも応用されるなど、多彩な臨床価値を持つ。