1944年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

個々の神経繊維の高度に分化された機能に関する諸発見

受賞者

ジョセフ・アーランガー
ジョセフ・アーランガー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ハーバート・ガッサー
ハーバート・ガッサー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体には電気のケーブルのような「神経」が走っています。エーランガーとガッサーは太い神経と細い神経で電気の流れる速さが違うことを見つけました。太いケーブルは速い電車、細いケーブルはゆっくりの自転車のようなイメージです。この違いのおかげで、熱い物に触れたときはすぐ手を引っ込め、あとからジンジンした痛みを感じます。二人の発見は、けがや病気で神経が傷ついたときにどうやって治すかを考えるヒントにもなりました。

関連キーワード

神経繊維

神経細胞の軸索部分で、電気信号を長距離に伝える構造。太さや髄鞘の有無によって伝導速度と機能が大きく異なる。エーランガーとガッサーは線維を太さ別に分類し、情報の種類が線維特性に対応することを示した。現在の教科書にあるA、B、C線維という区分は彼らの仕事が基礎となっている。臨床診断では伝導遅延が脱髄疾患や糖尿病性変性の指標となる。神経工学でも刺激パラメータを設計する際の重要な概念である。

活動電位

神経細胞膜が脱分極と再分極を経る急峻な電位変化。持続は約1ミリ秒で、情報伝達の基本単位となる。エーランガーとガッサーは複合活動電位を高速オシロスコープで時間分解し、個々の線維の活動電位成分を抽出した。これにより線維径とピーク振幅、立ち上がり速度の関係が明らかになった。今日のパッチクランプ技術は単一活動電位記録をさらに精密にするが、その概念的原点は1940年代の研究に遡る。活動電位解析は薬物の神経毒性評価にも応用される。

伝導速度

神経インパルスが軸索を伝わる速さ。太さが大きいほど、またミエリン鞘があるほど速い。エーランガーとガッサーは数十m/sから数百m/sまでの速度分布を測定し、直径の平方根に比例する近似式を提示した。伝導速度は神経伝導検査で測定され、脱髄や軸索損傷の診断指標となる。スポーツ医学では反射時間の解析に、ロボティクスでは人工神経ネットワーク設計の参考に使われる。近年は温度依存性や病態変化を数値モデルに組み込む研究が進む。

ミエリン鞘

シュワン細胞やオリゴデンドロサイトが形成する脂質性の絶縁構造。跳躍伝導を可能にし、伝導速度を数十倍に引き上げる。エーランガーとガッサーの分類ではAとB線維が有髄、C線維が無髄として区別された。多発性硬化症などの脱髄疾患ではミエリン破壊により速度が著しく低下する。近年は再生医療で人工ミエリンを作る研究が進行中。神経インターフェース開発でも電極配置とミエリン分布の関係が重要視されている。

電気生理学

生体の電気現象を測定し、機能を解析する学問領域。心電図や脳波も含むが、神経単位の解析はエーランガーとガッサーの技術革新で飛躍的に進んだ。彼らが導入した増幅器・オシロスコープ系は後のホジキンとハクスリーのイカ軸索研究にも影響した。現在はマルチ電極アレイや光遺伝学と組み合わさり、回路レベルの可視化が可能である。臨床でもペースメーカー植込みやてんかん焦点定位に応用される。今後、ナノデバイスや量子センサーで感度がさらに向上すると期待されている。

感覚神経と運動神経

感覚神経は皮膚や内臓から脳へ情報を送り、運動神経は脳や脊髄から筋肉へ命令を伝える。エーランガーとガッサーはこれらの機能が線維径と密接に関係することを示した。たとえば太いAα線維は運動指令を高速伝達し、細いC線維は鈍い痛覚を伝える。機能と構造の一致は神経回路の効率化戦略として進化的意義を持つ。リハビリテーションでは両神経系を別々に刺激し回復を促す手法が検討されている。ロボット工学では同様の双方向通信を模倣し、触覚フィードバック付き義手に応用されている。

カソード線オシロスコープ

真空管内の電子ビームで電圧波形を可視化する装置。1940年代当時、マイクロ秒レベルの応答をリアルタイム表示できる貴重な計測器だった。エーランガーとガッサーは感度を高めるため、水平掃引と垂直増幅を独自に改造し、単一線維の電位を直接観察した。これにより複合波形の重ね合わせを分離し、線維種ごとの特性を明確化できた。オシロスコープはその後トランジスタ化・デジタル化され、今日の高帯域オシロスコープやオプト・エレクトロニクス計測に発展している。計測機器の進歩が科学的ブレークスルーを生む好例といえる。