1950年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
副腎皮質ホルモンの発見、およびその化学構造と生物学的作用の解明
受賞者
アメリカ合衆国
スイス
アメリカ合衆国
解説
私たちの体には「ホルモン」という小さな合図を出す物質があります。その中で、副腎という腎臓の上にある小さな臓器は、ストレスやけがのときに体を守るホルモンを作ります。ケンダルさんたちは、この副腎から出るホルモンを見つけて名前を付け、その形やはたらきを調べました。このホルモンは炎症(赤く腫れること)をおさえる力があり、痛みをやわらげる薬にもなりました。いま病院で使うステロイド薬のもとになった、とても大事な発見です。
関連キーワード
副腎皮質
腎臓の上に載る副腎の外側部分で、ステロイドホルモンを産生する。ここから分泌される糖質コルチコイドや鉱質コルチコイドは、ストレス応答・代謝・電解質バランスを調節する。ゾナ・グロメルローサ、ゾナ・ファシキュラータ、ゾナ・レチクラリスの3層構造を持ち、各層ごとに合成酵素が異なる。1950年の受賞研究は、この臓器が産生する活性分子を初めて単離・定義した点で画期的だった。副腎皮質不全症やクッシング症候群の病態理解にも直接つながった。
コルチゾン
ケンダルらが化合物Eとして単離した糖質コルチコイドの一種で、現在も関節リウマチや皮膚炎の治療薬として用いられる。体内では11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型により不活性化される一方、1型によって再活性化されコルチゾールに変換される。合成コルチゾンは、プレグネノロンを出発物質とする半合成法(ライヒスタイン法)で大量生産が可能になった。1950年代には副作用(易感染性や高血糖)の問題も浮き彫りとなり、より選択性の高い合成ステロイド誘導体開発の契機となった。コルチゾンの研究は薬物動態学や受容体生物学の黎明期を支えた重要なモデルケースとされる。
ステロイドホルモン
環状骨格に基づく脂溶性ホルモン群で、副腎皮質ホルモン・性ホルモン・ビタミンDなどが含まれる。細胞膜を容易に通過し、細胞内受容体と結合して遺伝子転写を制御する。1950年の研究は、ステロイドホルモンの化学合成・構造決定における技術的礎を築いた。ステロイド骨格修飾により、抗炎症活性とミネラルコルチコイド活性を分離する設計の概念が生まれた。今日では合成ステロイドは喘息、自己免疫疾患、臓器移植後の免疫抑制など幅広く利用される。
抗炎症作用
生体が損傷や感染に伴い示す赤み・腫れ・熱・痛みを抑える薬理作用を指す。副腎皮質ホルモンはサイトカイン産生抑制、リンパ球アポトーシス誘導、血管透過性低下など多面的に働く。ヘンチはリウマチ患者への投与で抗炎症作用を臨床的に証明し、慢性炎症性疾患治療の新時代を切り開いた。副作用管理のため、最小有効量や局所投与製剤の開発が進められた。分子機序研究は最終的にNF-κBやAP-1など転写因子の抑制に行き着き、炎症シグナルネットワーク解析の道を開いた。
HPA軸
視床下部–下垂体–副腎系を指し、ストレス応答や日内リズムを制御する内分泌フィードバックシステムである。視床下部からのCRHが下垂体からのACTH分泌を促し、ACTHが副腎皮質でのコルチゾール産生を刺激する。コルチゾールは負のフィードバックでCRHとACTHを抑制し、ホルモン濃度の恒常性を保つ。1950年のホルモン単離・定量技術は、HPA軸を正確に測定するラジオイムノアッセイ開発へと発展した。ストレス関連疾患やうつ病、クッシング症候群の診断・治療に不可欠な概念となっている。