1952年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
結核に有効な初の抗生物質であるストレプトマイシンの発見
受賞者
アメリカ合衆国
解説
ストレプトマイシンという薬は、土の中に住むバクテリアが作り出す物質から見つかりました。ワクスマン博士は、この薬が「結核(けっかく)」という昔とてもこわかった病気の菌をやっつけることを発見しました。結核は、咳やくしゃみでうつり、肺を傷めてしまう病気です。ストレプトマイシンができたおかげで、多くの人が助かるようになりました。つまり、土の小さな生き物が、人の命を救う大きな力を持っていたのです。
関連キーワード
ストレプトマイシン
ストレプトマイシンはアミノグリコシド系抗生物質で、Streptomyces griseus が産生する二次代謝産物です。細菌の30Sリボソームに結合し、タンパク質合成を阻害することで殺菌的に作用します。結核菌や多くのグラム陰性菌に有効で、ペニシリン耐性菌にも効果を示しました。1944年から広く臨床使用され、結核治療に革命をもたらしました。現在は耐性対策のため多剤併用で用いられ、難治性感染症にも応用されています。
結核
結核はMycobacterium tuberculosis が引き起こす慢性感染症で、主に肺を侵し長期の咳や血痰、発熱を伴います。産業革命期から20世紀前半にかけて世界的に流行し、主要な死因となっていました。空気感染で広がるため都市部の過密環境で特に問題となりました。抗生物質、ワクチン、衛生改善により罹患率は減少しましたが、現在でも年間百万人以上が死亡しています。多剤耐性結核の拡大は世界的な公衆衛生課題として残っています。
抗生物質
抗生物質は微生物が産生し、他の微生物の増殖を阻害または殺菌する化合物の総称です。20世紀にペニシリンが実用化されて以降、感染症治療の中心的手段となりました。作用機序は細胞壁合成阻害、タンパク質合成阻害、DNA 作用など多岐にわたります。過度な使用や不適切な服用は耐性菌を生み、公衆衛生上の問題となっています。新規抗生物質の探索と適正使用の推進が世界的課題です。
放線菌
放線菌は土壌や海底などに広く生息する放射状菌糸を持つグラム陽性細菌群です。複雑な二次代謝産物を産生し、多くの抗生物質の供給源として重要視されています。ストレプトマイシン、テトラサイクリン、エリスロマイシンなどは放線菌由来です。ゲノムには多数のバイオシンセティック遺伝子クラスターが存在し、潜在的に未発見の化合物を生み出す能力があります。近年はメタゲノム解析や合成生物学を用いた新薬探索が活発に行われています。
Mycobacterium tuberculosis
Mycobacterium tuberculosis は結核の原因菌で、酸性アルコール抵抗性を示す桿菌です。細胞壁にミコール酸を含み、この脂質層が薬剤透過を阻害するため治療が難しくなります。ゆっくりと分裂し、潜伏感染状態で長期間休眠できるのも特徴です。多剤併用で長期治療を行わないと耐性株が出現しやすく、世界的な公衆衛生問題となっています。ゲノム解析により病原性因子や耐性機構が明らかになり、新規薬剤標的の開発が進められています。
耐性菌
耐性菌は抗生物質に感受性を示さず、治療を難しくする細菌のことです。遺伝子変異やプラスミドによる耐性遺伝子獲得で生じます。ストレプトマイシン耐性結核菌は抗生物質治療の初期から報告され、多剤併用療法の必要性を示しました。耐性菌は医療コストを増大させ、入院期間を延伸させます。適正使用、感染対策、新規薬開発が解決の鍵です。
土壌微生物スクリーニング
土壌微生物スクリーニングは、土壌中の微生物が作り出す化合物を調べ、有用な抗生物質や酵素を発見する手法です。ワクスマンは培地で多数の放線菌を培養し、病原菌に対する阻害活性を調べる系統的手法を確立しました。このアプローチからストレプトマイシンを含む多数の薬剤が見つかりました。近年は高通量シークエンスやロボット化により探索効率が飛躍的に向上しています。環境汚染対策や農業生産性向上にも応用が期待されています。
多剤併用療法
多剤併用療法は、複数の薬剤を同時に使用して耐性菌の出現を抑え、治療効果を高める方法です。ストレプトマイシン単剤では耐性結核菌が急速に出現したため、PASやイソニアジドとの併用が採用されました。異なる作用機序の薬剤を組み合わせることで、細菌が同時に耐性を獲得する確率を下げられます。また副作用を低減し、治療期間を短縮できる場合もあります。抗HIV療法やがん治療でも同様の考え方が広く応用されています。