1955年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

酸化酵素の性質および作用機序の発見

受賞者

ヒューゴ・テオレル
ヒューゴ・テオレル

スウェーデンスウェーデン

解説

私たちの体では、食べ物をエネルギーに変える「はたらき者」がたくさん活躍しています。その代表が「酵素」というたんぱく質です。酵素は、ものを切ったり貼ったりする工場の機械のように、化学反応を速く進めます。テオレルさんは、その中でも「酸化酵素」とよばれる酵素を詳しく調べました。酸化酵素は、呼吸や食べ物を燃やすときに必要で、電子という小さな粒を動かしてエネルギーを取り出します。彼は酸化酵素がどんな形をしているか、どんな道具(補酵素)を使うかを見つけ出しました。これにより、人間や動物がどうやって元気を作り出すかが、ぐんと分かりやすくなりました。この知識は、病気の治療や健康に役立つくすりを開発する手がかりにもなっています。

関連キーワード

酸化酵素

酸化酵素は基質から電子を取り去ることで酸化反応を触媒する酵素の総称です。多くはヘム鉄や銅、フラビンなどの補因子を持ち、電子を次の受容体へと渡します。ミトコンドリア電子伝達系、解毒反応、免疫での活性酸素生成など、生命活動のあらゆる段階で働いています。酸化酵素の反応速度や特異性は細胞のエネルギー産生量を決定し、病気の発症にも直結します。テオレルの研究は、この酵素群の活性中心とメカニズムを解明し、後の酵素学の礎となりました。

補酵素NAD⁺

NAD⁺はニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化型で、酵素に結合して電子を受容します。還元型のNADHになるとミトコンドリアでATP合成に利用され、エネルギー通貨の流れを作ります。テオレルはNAD⁺がアルコール脱水素酵素へ順序良く結合し、ヒドリドを受け取る瞬間をスペクトルで観測しました。細胞のNAD⁺/NADH比は酸化還元状態の指標で、老化、がん、糖尿病研究の重要なパラメータです。サプリメントや創薬を通じてNAD⁺を増やす試みが進行中で、基礎知識はテオレルの発見に端を発します。

カタラーゼ

カタラーゼはヘム鉄を持つ酵素で、過酸化水素(H₂O₂)を水と酸素に高速で分解します。H₂O₂は細胞毒性を引き起こす活性酸素種であり、その除去は酸化ストレス防御に必須です。テオレルはカタラーゼ反応の第一中間体「コンパウンドI」を同定し、反応機構を定式化しました。1分子のカタラーゼは1秒間に数百万分子のH₂O₂を処理できる驚異的な触媒効率を示します。カタラーゼ活性は老化や炎症性疾患の研究指標にもなり、医薬品開発のターゲットでもあります。

ペルオキシダーゼ

ペルオキシダーゼは過酸化水素や有機過酸化物を利用して基質を酸化するヘム酵素群です。植物のホウレンソウやヒトの甲状腺に存在し、細胞壁硬化やホルモン合成を支えています。テオレルはペルオキシダーゼのスペクトル変化を追跡し、カタラーゼと似た高原子価鉄オキソ中間体が生じることを示しました。その研究は抗菌剤の開発や食品の品質試験(ペルオキシダーゼテスト)に応用されています。免疫標識に用いられるHRP(ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ)の基礎データもテオレルの成果が土台です。

スペクトル解析

スペクトル解析は物質が吸収・発光する光の波長を測定して、構造や状態を調べる方法です。テオレルは紫外可視分光法を駆使し、酵素と補酵素が結合したときの微妙な吸収変化を定量しました。これにより、反応の途中で出現する極めて短寿命の中間体をミリ秒単位で捉えることが可能になりました。彼の技術は現在の停止流法、フラッシュ光分解、時間分解X線結晶学など多彩な測定手法の原型です。スペクトル解析は薬物スクリーニングや臨床診断でも不可欠なツールとして活躍しています。

酸化還元反応

酸化還元反応は電子の授受によって物質の酸化状態が変わる化学反応です。生体では呼吸鎖や光合成、解毒などで盛んに起こり、エネルギー変換の中心となります。酸化酵素はこの反応を触媒し、電子を安全かつ効率的に移動させます。酸化還元反応の不均衡は酸化ストレスを生み、老化や炎症、がんを引き起こす要因になります。テオレルの研究は、生体内の酸化還元反応を定量的に解析する手法を提供しました。

アルコール脱水素酵素

アルコール脱水素酵素(ADH)はアルコールをアセトアルデヒドへ酸化する亜鉛含有酵素です。テオレルはADHとNAD⁺の複合体を最初に精製し、ヒドラジド移動機構を提唱しました。この酵素は肝臓でのアルコール代謝に不可欠で、ADH遺伝子多型は飲酒耐性を左右します。ADHの速度論はピンポン機構と順序複合体機構を識別する教科書的モデルとして引用されます。現在は薬物相互作用やメタノール中毒治療にも応用され、テオレルの基礎研究が実臨床へ拡張されています。