1957年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

ある種の体内物質の作用を阻害する合成化合物、特に血管系および骨格筋に関するものの発見

受賞者

ダニエル・ボベット
ダニエル・ボベット

イタリアイタリア

解説

花粉症になるとかゆみやくしゃみが出るのは、ヒスタミンという物質が体のスイッチを入れるからです。ダニエル・ボベットはそのスイッチをじゃまする人工の薬を作りました。この薬を飲むとヒスタミンが働けず症状がらくになります。さらに彼は手術中に筋肉をやわらかくする薬も見つけ、医師が安全に手術できるようにしました。これらの薬は体の中のカギとカギ穴の仕組みを上手に利用しています。私たちが日常使うアレルギー薬やかぜ薬のもとになった大切な発見です。

関連キーワード

抗ヒスタミン薬

抗ヒスタミン薬はヒスタミンH1受容体を競合的に遮断し、くしゃみ・鼻水・かゆみなどのアレルギー症状を軽減する。ボベットが発見した第一世代化合物は眠気を起こしやすかったが、選択性と極性を改良した第二世代薬は日常生活への影響を小さくした。現在は点鼻・点眼・経口など多彩な製剤形態があり、季節性アレルギーから慢性蕁麻疹まで幅広く適応される。またH2受容体拮抗薬や逆流性食道炎治療薬など、ヒスタミンの他の受容体サブタイプを標的とする薬の開発にも波及効果を与えた。抗ヒスタミン薬は薬物選択性と副作用のバランスを学ぶ代表例として薬理教育でも重要視されている。

ヒスタミン

ヒスタミンはアミノ酸ヒスチジンから生成される生体アミンで、アレルギーや炎症、酸分泌調節に関与する。肥満細胞や好塩基球から放出されH1受容体を介して血管拡張や気管支収縮を引き起こす。中枢神経では覚醒維持にも寄与し、H3受容体は自己調節的に放出量を制御する。過剰放出は蕁麻疹やアナフィラキシーを誘発するため、抗ヒスタミン療法が臨床で重要となる。逆に不足すると胃酸分泌低下や睡眠障害が生じるなど、多面的な生理機能を持つ。

受容体拮抗薬

受容体拮抗薬は内因性リガンドと同じ結合部位に結合し、シグナル伝達を阻害する分子である。競合型は濃度依存的に右方シフトした用量反応曲線を示し、Schild 解析でpA2が算出される。非競合型や不可逆型は最大反応を低下させ、臨床では長時間作用の薬として使われることが多い。降圧薬のβ遮断薬やCa拮抗薬、消化性潰瘍治療のH2拮抗薬など多くの治療薬がこのカテゴリーに属する。拮抗薬の開発はリガンド結合部位の立体化学と電子的特性を解析する構造活性相関の発展を促した。

アセチルコリン受容体

アセチルコリン受容体には筋肉型ニコチン性と自律神経後シナプス型ムスカリン性の二系統がある。神経筋接合部のニコチン性受容体は五量体イオンチャネルで、アセチルコリン結合によりNaイオン流入と筋収縮を誘導する。クルアレ様拮抗薬は結合サイトを占有し、電位依存的信号を遮断して筋弛緩をもたらす。遺伝子変異は先天性筋無力症の原因となり、薬理学的解析が診断・治療に重要である。受容体サブユニットの構造解明は、創薬ターゲットとしての精密設計を可能にした。

神経筋遮断

神経筋遮断は神経筋接合部での伝達を一時的に停止させ、手術中に筋肉を動かなくする麻酔補助技術である。非脱分極性薬は受容体競合拮抗で作用し、スキサメトニウムなど脱分極性薬は持続脱分極により遮断する。遮断深度はトレインオブフォー刺激で定量評価され、過剰投与は呼吸抑制を招く。ボベットの研究により選択性と安全域が改善され、術後回復が早くなった。近年はスガマデクスなど特異的拮抗薬による迅速なリバーサルも導入されている。

筋弛緩薬

筋弛緩薬は骨格筋の緊張を低下させる薬で、外科手術や気管挿管時の筋硬直防止に必須である。非脱分極性薬(パンクロニウムなど)はアセチルコリン受容体遮断で作用し、脱分極性薬(スキサメトニウム)は持続的脱分極を引き起こす。投与量は体重や腎肝機能で調整され、作用時間や副作用プロファイルが異なる。モニタリングにより適切なタイミングで拮抗薬やスガマデクスが投与され呼吸機能が保護される。筋弛緩薬の進歩により低侵襲手術や長時間手術の安全性が向上した。

血管拡張

血管拡張は血管平滑筋がゆるむことで血圧が下がり、臓器への血流が増加する現象である。ヒスタミンや一酸化窒素、プロスタグランジンなどが内皮細胞から放出され受容体を介して起こる。過度の血管拡張はアナフィラキシー性ショックを引き起こすため臨床管理が重要である。ボベットの抗ヒスタミン薬はヒスタミン性血管拡張を抑制し、アレルギー症状や低血圧発作を軽減する。血管拡張機序の理解は降圧薬や狭心症治療薬設計の基礎ともなった。