1959年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
リボ核酸およびデオキシリボ核酸の生合成機構の発見
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
私たちの体の中には、設計図をしまうDNAと、その写しを届けるRNAという大切な分子があります。DNAは図書館にある分厚い本、RNAはそこから必要なページをコピーして教室に持って行くプリントのようなものです。でも当時、人間の細胞がどうやってこのコピーを作るのかはよく分かっていませんでした。オチョアさんとコーンバーグさんは、細胞の中にある「酵素」というタンパク質が、材料をつなげてDNAやRNAを組み立てるしくみを発見しました。このしくみがわかったおかげで、病気の検査や薬づくりがずっと進歩しました。
関連キーワード
リボ核酸(RNA)
リボ核酸(RNA)は、リボースを含むヌクレオチドが鎖状に連なった高分子です。DNAの情報を写し取ってタンパク質合成に運ぶメッセンジャーRNAのほか、リボソームを構成するrRNAやアミノ酸を運ぶtRNAなど多彩な種類があります。RNAは通常一本鎖ですが、塩基間の水素結合により複雑な二次構造をとり、触媒として働くリボザイムの例も知られています。ウイルスの中にはゲノムとしてRNAを持つものもあり、レトロウイルスやインフルエンザウイルスの研究は分子生物学の発展に寄与しました。1959年のオチョアらの業績は、RNA鎖が酵素作用で合成されることを初めて試験管内で実証し、後のRNA生物学の礎となりました。
デオキシリボ核酸(DNA)
デオキシリボ核酸(DNA)は、遺伝情報を担う二重らせん構造のポリヌクレオチドです。各ヌクレオチドはデオキシリボース、リン酸、4種類の塩基(A、T、G、C)から成り、相補的塩基対で安定化されています。DNAは複製の際に二本鎖がほどけ、それぞれを鋳型にして新しい鎖が合成される半保存的複製を行います。DNA損傷や突然変異は細胞に多様性を与える一方、がんや遺伝病の原因にもなるため修復機構が備わっています。コーンバーグのDNAポリメラーゼⅠの発見は、DNA複製が高い正確性で進行する分子基盤を提供し、医療診断やDNAシーケンス技術へと応用が広がりました。
RNAポリメラーゼ
RNAポリメラーゼはDNAを鋳型としてRNAを合成する酵素で、遺伝子発現の第一段階である転写を担います。細菌では1種類ですが、真核生物ではポリメラーゼI〜IIIなど複数型が機能分担しています。酵素はプロモーター配列を認識してDNA二重鎖を局所的に解離させ、リボヌクレオチド三リン酸を1塩基ずつ伸長させます。伸長中にはエロンゲーション因子やRNA修正酵素が結合して転写の速度と精度を制御します。オチョアの研究は天然のRNAポリメラーゼではなくPNPaseでしたが、酵素的RNA合成という概念を提示し、その後のRNAポリメラーゼ精製に道を開きました。
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼはDNA複製や修復の中心酵素で、テンプレート鎖に相補するデオキシヌクレオチドを付加して新生鎖を伸長させます。種類は生物種ごとに多岐にわたり、原核のポリメラーゼIIIや真核のポリメラーゼδ・εなどが高忠実複製を担当します。反応には2価金属イオン(Mg2+またはMn2+)が必須で、必要に応じてプライマーやスライディングクランプを利用してプロセス性を高めます。コーンバーグが単離したDNAポリメラーゼⅠは主に岡崎フラグメントの修飾やDNA修復に関与しますが、実験室では長らく代表的なDNA合成酵素として利用されてきました。DNAポリメラーゼの立体構造解析は抗ウイルス薬やがん治療薬の設計に重要な情報を提供しています。
転写
転写はDNAの遺伝情報をRNAに写し取る過程で、細胞が必要なタンパク質を作る第一歩です。RNAポリメラーゼがプロモーターに結合し、二重らせんを解離させながらリボヌクレオチドを重合していきます。エピジェネティックなヒストン修飾や転写因子の結合が転写開始を精緻に調節します。転写速度やスプライシングの選択は異なるアイソフォームを生み出し、多様な細胞機能を可能にします。1959年の受賞研究は転写機構の分子的出発点を示し、後にプロモーター解析や転写制御ネットワーク研究を加速させました。
DNA複製
DNA複製は細胞分裂時に遺伝情報を正確に次世代へ伝える必須プロセスです。二本鎖DNAはヘリカーゼによって開裂し、リーディング鎖とラギング鎖で合成様式が異なります。DNAポリメラーゼはプライマーを基点に5′→3′方向へデオキシヌクレオチドを付加し、ラギング鎖では岡崎フラグメントが形成されます。校正機能やミスマッチ修復により、エラー率は1億塩基に1回程度と極めて低く抑えられています。Kornbergの成果は複製酵素系の再構成への扉を開き、再生医療やゲノム編集技術における高忠実DNA合成に応用されています。
ヌクレオチド
ヌクレオチドは核酸の構成単位で、糖、リン酸、塩基からなる三成分分子です。ATPやGTPなどは化学エネルギーの通貨としても働き、代謝全体を駆動します。ヌクレオチドの並び順が遺伝情報を規定し、1つの置換や欠失が形質に大きな影響を与える場合があります。オチョアとコーンバーグはヌクレオシド三リン酸を基質として用い、その重合反応を酵素化学的に解析しました。今日では合成ヌクレオチドはアンチセンス医薬やmRNAワクチンに組み込まれ、核酸生物学の応用範囲を広げています。
ポリヌクレオチドフォスホリラーゼ
ポリヌクレオチドフォスホリラーゼ(PNPase)はリボヌクレオチド二リン酸を基質に無機リン酸を放出しながらRNA鎖を伸長させる可逆酵素です。オチョアが1955年に牛心臓ミトコンドリアから初めて精製し、後に大腸菌でも同系酵素が見つかりました。酵素はMg2+を補因子とし、鋳型を必要とせずランダム配列RNAを合成できるため、ポリCやポリUなどの試料調製に利用されます。生体内ではRNAの分解反応が主で、オリゴヌクレオチドの調節的加工に関与しています。1959年の授賞理由に直接名は出ませんが、この酵素の発見がRNA合成機構の理解に決定的な役割を果たしました。