1962年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

核酸の分子構造および生体の情報伝達におけるその重要性の発見

受賞者

ジェームズ・ワトソン
ジェームズ・ワトソン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

フランシス・クリック
フランシス・クリック

イギリスイギリス

モーリス・ウィルキンス
モーリス・ウィルキンス

イギリスイギリス, ニュージーランドニュージーランド

解説

私たちの体はたくさんの細胞でできています。その細胞の中には「DNA」というとても細い糸のような物質が入っています。DNAには、人の背の高さや目の色などを決める「せつめい書」がしまわれています。ワトソンさん、クリックさん、ウィルキンスさんは、このDNAがくるくるねじれたハシゴの形をしていることを見つけました。ハシゴの段の部分がくみあわせのパズルのようにはまり、正しい順序で情報を運んでいることもわかりました。この発見のおかげで、病気のしくみを調べたり、作物を丈夫にしたりする研究がぐんと進みました。

関連キーワード

核酸

核酸とは、生物の細胞内に存在し、遺伝情報を保存・伝達する高分子化合物の総称です。DNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)の2種類があり、リン酸、糖、塩基が基本単位(ヌクレオチド)として連なっています。塩基配列の順序がタンパク質合成や細胞制御に関する指令コードを担います。核酸は自己複製機能を持つため、進化と遺伝の根本的媒体と考えられています。医療では遺伝子診断・ワクチン・核酸医薬など直接ターゲットにされることが増えています。1962年の二重らせん発見は、核酸の構造がその機能と密接に結びついていることを初めて明快に示しました。

DNA二重らせん

DNA二重らせんは、2本のポリヌクレオチド鎖が右巻きらせんを描きながら互いに巻き付いた構造です。直径は約2 nm、1回転で10塩基対という規則的なパラメータを持ちます。鎖同士は塩基間の水素結合で結ばれ、相補性により正確な複製が可能となります。内側の塩基は疎水性で積み重なり、外側の糖‐リン酸骨格は水溶液との相互作用を担います。メジャー溝とマイナー溝と呼ばれる凹凸がタンパク質結合部位の認識に重要です。ワトソン‐クリックモデルは現代のゲノム科学の基準座標系となっています。

塩基対

塩基対とは、DNAやRNAで向かい合う2つの塩基が水素結合で結ばれたユニットです。DNAではアデニン‐チミン、グアニン‐シトシンの組み合わせが基本となります。水素結合の本数と位置が特定であるため、誤った対合を排除し高い複製忠実度を実現します。塩基対形成はPCRやDNAシーケンサーなど分子生物学的手法の原理となっています。遺伝子変異はこの対合の規則が破綻すると発生します。ワトソンとクリックのモデルは、塩基対が情報複製の鍵であることを示しました。

X線回折

X線回折は、結晶や繊維にX線を当て散乱パターンを解析し分子構造を推定する手法です。ロザリンド・フランクリンが撮影したDNAの「写真51」は、らせん構造を示す特徴的な十字模様を含んでいました。このデータを基に、らせんピッチや塩基対間隔などの幾何パラメータが計算されました。今日ではタンパク質やウイルス、ナノ材料の原子レベル解析に広く利用されています。シンクロトロン光源の発達により解析精度は飛躍的に向上しました。ワトソンとクリックの構造提案は、X線回折データをモデル化する手法の先駆けとなりました。

相補性

相補性とは、DNAやRNAの塩基が特定の相手とだけ結合する特性を指します。この規則はチャルガフ則に裏付けられ、配列情報の自己複製を可能にします。相補鎖はテンプレートとなり新たな鎖を合成するため、半保存的複製が実現します。miRNAなどの核酸医薬は、標的RNAとの相補性を利用して遺伝子発現を制御します。バイオインフォマティクスでは、配列相補性を計算してプライマーやガイドRNAを設計します。この概念は分子生物学の実験計画からバイオ技術開発まで中核的役割を担っています。

中心教義

中心教義は「DNA→RNA→タンパク質」という一方向の情報流れを示す概念です。DNAは転写によりRNAに写し取られ、RNAは翻訳によりアミノ酸配列に変換されます。逆転写酵素やRNA依存RNAポリメラーゼの発見で例外も知られていますが、基本骨格は維持されています。教義の確立により、遺伝子発現制御やシグナル伝達など細胞機構の研究が体系化されました。ゲノム編集や合成生物学は、中心教義の各ステップを人工的に操作する技術といえます。概念は教育や研究の入門として今も広く使われています。

チャルガフ則

チャルガフ則はDNAの塩基組成に関する経験則で、AとT、GとCの量がほぼ等しいとするものです。ルールは種ごとに総塩基比は異なるが相補塩基比は常に1:1であることを示しました。WatsonとCrickはこの観測を鍵として塩基対の存在を推定しました。ルールはDNAが二重らせんである場合にのみ自然に説明できるため、構造モデルの強力な証拠となりました。現在もゲノム解析でGC含量の指標として利用され、種間比較や遺伝子密度推定に応用されます。また、塩基異常比を調べることで突然変異頻度やDNA損傷の評価も行われています。