1963年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
神経細胞膜の末梢および中枢部における興奮と抑制に関するイオン機構の発見
受賞者
オーストラリア
イギリス
イギリス
解説
私たちの体の中には「神経」という電線のような細い糸がたくさん走っています。この神経がスイッチを入れるときは、細胞の外と中で小さな粒(イオン)が行ったり来たりします。エックルスさん、ホジキンさん、ハクスリーさんは、その粒がドアの開け閉めのように動くことで、神経が“オン”になったり“オフ”になったりすることを突きとめました。これにより脳が考えたり体が動いたりする仕組みがよくわかるようになりました。
関連キーワード
イオンチャネル
細胞膜を貫通するたんぱく質で、特定のイオンだけを選んで通す“ゲート”の役割を果たします。電位依存型チャネルは膜電位の変化で開閉し、リガンド依存型チャネルは神経伝達物質などの結合で開きます。ホジキン・ハクスリーの研究は電位依存型ナトリウムチャネルとカリウムチャネルの存在を機能的に示した最初の成果でした。後に遺伝子クローニングとX線結晶解析により構造が解明され、チャネル病(チャネロパチー)の理解や新薬開発を加速させました。現在では光感受性チャネルを用いたオプトジェネティクスなど多様な応用が広がっています。
活動電位
活動電位は神経細胞や筋細胞が発する急速な電圧変化で、情報を長距離伝達する電気信号です。数ミリ秒の間に膜電位が静止値(約−70mV)から正(+30mV程度)に跳ね上がり再び戻ります。ナトリウムイオンの流入による脱分極、カリウムイオンの流出による再分極という順序で進行します。電位依存型イオンチャネルの時定数とコンダクタンス変化が波形を決定し、ホジキン・ハクスリー方程式で定量化できます。ミエリン鞘を持つ軸索では跳躍伝導が起こり、速度は100 m/sを超えることもあります。
シナプス
シナプスは神経細胞同士、または神経細胞と他の細胞をつなぐ“連絡所”です。化学シナプスでは、電気信号が終末に到達すると小胞から神経伝達物質が放出され、受容体チャネルを開いて次の細胞を興奮または抑制します。電気シナプスはギャップ結合で直接イオンが流れる高速経路です。エックルスは化学シナプスでの興奮性(EPSP)と抑制性(IPSP)を区別し、そのイオン機構を解明しました。シナプス可塑性は学習・記憶の基盤であり、薬物依存や精神疾患との関連も深く研究されています。
興奮性電位
興奮性シナプス後電位(EPSP)は膜電位を脱分極方向へ動かし、活動電位発生の確率を高めます。主にナトリウムやカルシウムイオンの透過性が増大することで生じ、グルタミン酸受容体やニコチン性アセチルコリン受容体がよく知られています。複数のEPSPが時間的・空間的に加算されて閾値を超えると神経が発火します。この足し算の仕組みは脳回路の論理演算を担い、ニューロモルフィック計算でも模倣されています。
抑制性電位
抑制性シナプス後電位(IPSP)は膜電位を過分極方向あるいは静止電位付近に引き戻し、活動電位の発生を抑えます。塩素イオンチャネル(GABA_A受容体)が開くことで水平方向のシャントが生じ、入力抵抗を下げることも抑制に寄与します。エックルスはIPSPを定量的に記録し、運動ニューロンの協調的制御を説明しました。抑制機構の破綻はてんかんや不安障害に関与するため、GABA作動薬が治療薬として用いられます。
ホジキン・ハクスリー方程式
ホジキン・ハクスリー方程式は膜電位の時間変化を説明する微分方程式系で、電気回路モデル(コンダクタンスベース)として表されます。各イオンチャネルの開閉確率を表すゲート変数m, h, nが導入され、それぞれに速度定数α, βが電位依存で定義されます。このモデルは神経細胞の発火閾値、屈曲発火、絶対屈折期など多数の現象を再現します。生体信号処理のシミュレーションや人工知能のスパイクネットワーク設計で広く利用されています。
電位固定法
電位固定法は細胞膜電位を人為的に一定に保ちながらイオン電流を測定する電気生理学的手法です。ホジキン・ハクスリーはこの技術を開発してナトリウムとカリウムの電流成分を時間的に分離しました。現代ではパッチクランプ装置が発展形として用いられ、薬物スクリーニングや遺伝子改変マウスの機能解析に不可欠です。電位固定データはチャネル動態の定量モデル化や薬理作用機序の解明に直結します。