1964年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

コレステロールおよび脂肪酸代謝の機構と調節に関する発見

受賞者

コンラート・ブロッホ
コンラート・ブロッホ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

フェオドル・リュネン
フェオドル・リュネン

西ドイツ西ドイツ

解説

私たちの体は、食べ物からだけでなく自分でも「脂(あぶら)」を作っています。脂はエネルギーをためたり、細胞の壁を作ったりする大切な材料です。ブロッホさんとリュネンさんは、体の中で脂がどのように作られ、作りすぎを防ぐ仕組みまで詳しく調べました。そのおかげで、お医者さんは心臓や血管の病気を防ぐ薬を考えられるようになりました。毎日の生活で耳にする“コレステロール”を安全なレベルに保つ方法の元になった研究です。

関連キーワード

コレステロール

ステロイド骨格を持つ脂質で、細胞膜の流動性を調整し、胆汁酸やステロイドホルモンの前駆体でもある。肝臓で合成されるほか、食事からも摂取される。必要不可欠だが過剰になると動脈硬化を引き起こす。ブロッホとリュネンは合成経路と調節機構を解明し、コレステロール管理の科学的基盤を作った。現代医療では血清コレステロール値が心血管リスク評価の指標となっている。

脂肪酸生合成

アセチルCoAを出発物質に、マロニルCoAが二炭素単位を提供して鎖長が伸びる反応系列。複合体酵素FASによって細胞質で行われる。産生された脂肪酸はエネルギー貯蔵や膜リン脂質の原料になる。リュネンはFASの多機能性と調節機構を解明し、栄養状態が脂質合成に与える影響を示した。肥満や糖尿病研究でも中心的テーマである。

HMG-CoA還元酵素

コレステロール生合成の律速段階で、HMG-CoAをメバロン酸へ還元するNADPH依存性酵素。細胞内コレステロールが多いと転写と分解が促進され、活性が低下する。リン酸化による短期的抑制も知られる。スタチンは本酵素の競合阻害剤として作用し、血清コレステロールを低下させる。ブロッホとリュネンの研究は、この酵素が代謝制御のハブであることを示した。

メバロン酸経路

アセチルCoAからメバロン酸を経てイソプレノイド前駆体へ至る一連の反応。コレステロールのほか、ユビキノン、ドルコール、プレニル化タンパク質など多様な生体分子を生み出す。細菌、酵母、ヒトに保存された古い経路である。律速点であるHMG-CoA還元酵素の制御が代謝全体に波及する。医薬品ターゲットとしても極めて重要。

アセチルCoA

クエン酸回路、脂質合成、ケトン体生成など多くの経路をつなぐ二炭素キャリア。ミトコンドリアで作られ、クエン酸として細胞質へ輸送される。コレステロールと脂肪酸の両方の出発物質である点が重要。細胞エネルギー状態と栄養情報を統合するシグナル分子ともみなされる。BlochとLynenの研究で、その中心的役割が明確になった。

イソトープトレーサー

放射性または安定同位体で標識した化合物を用いて、体内での物質の流れを追跡する手法。ブロッホは14Cアセテートを利用してコレステロール骨格の組み立て順序を決定した。同位体分布を解析することで、中間体を直接観測せずに経路を特定できる。現在はNMRや質量分析と組み合わせたメタボロミクスに拡張されている。生合成研究の不可欠なツールである。

スタチン

HMG-CoA還元酵素を競合的に阻害することでコレステロール合成を抑制する薬剤群。リュネンらの基礎研究をもとに1970年代に開発された。LDLコレステロールを低下させ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを大幅に減少させる。副作用として筋症や肝機能障害があるが、臨床的利益が大きい。世界で最も広く処方される薬の一つとなっている。

リン酸化による酵素制御

ATP依存性キナーゼが酵素をリン酸化し、活性を上げたり下げたりする仕組み。脂質代謝ではAMPKやPKAがHMG-CoA還元酵素、アセチルCoAカルボキシラーゼなどを制御する。栄養状態やホルモンシグナルを速やかに代謝フラックスに変換できる点が特徴。ブロッホとリュネンは、この短期調節が長期的転写制御と協調することを示した。シグナル伝達と代謝研究の交差点となる概念である。

SREBP

Sterol Regulatory Element-Binding Proteinの略で、コレステロールと脂肪酸合成遺伝子の転写を制御する転写因子。細胞内コレステロールが低下すると前駆体がGolgiで切断され、活性型が核へ移行して遺伝子発現を誘導する。HMG-CoA還元酵素やFASも標的遺伝子に含まれる。Lynenの提唱した転写レベルの調節概念を裏付ける分子として後に同定された。脂質代謝異常やがんでのSREBP活性化が研究焦点となっている。

リピッドホームオスタシス

体内の脂質量と種類を一定範囲に保つ仕組み。合成、分解、輸送、貯蔵、シグナル伝達が複雑に連携し、エネルギー需要や食事の変化に対応する。ブロッホとリュネンの研究は、酵素活性の調節と遺伝子発現の両面からこの平衡が成立することを示した。破綻すると脂質異常症、肥満、脂肪肝、動脈硬化などが発症する。現在のライフサイエンスで重要視される包括的概念である。