1968年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
遺伝暗号とそのタンパク質合成における機能の解明
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
私たちの体は細胞でできていて、その中にはDNAという『設計図』があります。DNAの文字を読み取るとき、細胞はまずRNAというメッセンジャー(伝言係)を作ります。ホリーさん、コラナさん、ニーレンバーグさんは、RNAに書かれた『三つの文字の組み合わせ』が、一つひとつのアミノ酸という部品を指示していることを見つけました。これは、レゴの説明書に載っている色と形の指示がブロックをつなげる順番を教えてくれるのと似ています。この発見により、体がどうやって髪や筋肉などのタンパク質を作るかがわかり、病気の研究や薬作りにも役立っています。
関連キーワード
遺伝暗号
DNAやRNA上の3つの塩基(コドン)が1種類のアミノ酸や翻訳終止を指定する対応表。全生物でほぼ共通であり、生命の普遍性を示す証拠となる。1960年代の解読によって64種類のコドンが20種類のアミノ酸と3つの終止信号に割り当てられた。コドンの冗長性(多義性)は突然変異への耐性を高める働きがある。遺伝子工学ではコドン最適化や非天然アミノ酸導入に応用されている。
コドン
mRNAを3塩基ずつ区切った単位で、対応するtRNAのアンチコドンと相補的に結合する。翻訳開始コドンAUGはメチオニンを指定し、リボソームの読み枠設定の基準となる。終止コドンUAA・UAG・UGAはアミノ酸を指定せず、開放読み枠の終了を司る。コドンは64種類存在し、特定アミノ酸を指定する数は一様ではなく冗長である。生物種ごとに用いられる頻度に偏り(コドンバイアス)があり、発現制御に関与する。
tRNA
転移RNAは約70~90塩基の小型RNAで、クローバー型二次構造とL字型三次構造をとる。3塩基のアンチコドンでmRNAを読み取り、5’末端近くのアミノアシル結合部位に対応アミノ酸を運搬する。アミノアシルtRNA合成酵素がtRNAを正確に認識し、アミノ酸を結合させることで翻訳の正確性が保証される。多くの修飾塩基を持ち、コドンワブリングや翻訳速度の微調整に寄与する。合成生物学ではtRNAを改変し、非天然アミノ酸の挿入や遺伝暗号の拡張が試みられている。
mRNA
メッセンジャーRNAはDNAから転写される一次情報分子で、リボソームでのタンパク質合成の鋳型となる。5’キャップ、5’非翻訳領域、コーディング領域、3’非翻訳領域、ポリA尾部などの構造要素を持つ。配列中のコドン順序がタンパク質のアミノ酸配列を決定する。mRNAワクチンでは修飾塩基や最適化コドンが導入され、免疫応答を誘導する抗原タンパク質を効率的に発現させる。分解速度や翻訳効率は二次構造や結合タンパク質によって調節される。
翻訳
翻訳はリボソーム上でmRNAのコドン配列をアミノ酸配列へ変換する過程で、開始・伸長・終結の3段階に分かれる。開始では開始tRNAがリボソーム小サブユニットに結合し、AUGコドンを認識する。伸長ではアミノアシルtRNAが順次結合し、ペプチド結合が形成されてポリペプチド鎖が伸長する。終結では終止コドンがリリースファクターに認識され、合成が停止してタンパク質が放出される。抗生物質や毒素の多くは翻訳ステップを阻害することで殺菌・殺細胞作用を示す。
アミノアシルtRNA合成酵素
各アミノ酸に対して少なくとも1種類存在し、対応するtRNAを認識してアミノ酸を付加する酵素。二段階の活性化反応(AMP結合体形成とtRNA転移)で高い特異性を維持し、誤結合を校正する編集ドメインを持つものも多い。誤り率は10,000分の1程度と低く、遺伝暗号の正確な読み取りを支える。遺伝病や自己免疫疾患の原因変異が同酵素に見つかる例もある。人工的に活性部位を改変して、非天然アミノ酸をtRNAに導入する技術が開発されている。
ポリU実験
1961年、ニーレンバーグとマッテイはウラシルのみで構成された合成RNA(ポリU)を大腸菌抽出液に加え、産生ポリペプチドがフェニルアラニンのみから成ることを発見した。この結果からUUUコドンがフェニルアラニンを指定するという最初の決定的証拠が得られた。同手法は他のホモポリマー・コポリマーRNAにも応用され、遺伝暗号解読の突破口となった。実験には14C標識フェニルアラニンを用いた放射活性測定が採用された。
クローバー型構造
tRNAの二次構造表現で、4本のアーム(受容茎、Dアーム、アンチコドンアーム、TψCアーム)と可変ループを持ち、クローバーの葉のように描かれる。ホリーが最初に完全配列を決定し、このモデルを提示した。立体的にはL字型をとり、アミノ酸結合部位とアンチコドンが離れて配置されることでリボソーム内での機能を果たす。修飾塩基が多いDアームやTψCアームは正しい折りたたみとリボソーム認識に重要。クローバー型はtRNA同定やアライメントの基準として広く用いられる。
終止コドン
UAA・UAG・UGAの3種類で、アミノ酸を指定せず翻訳を終結させるシグナル。リボソームでリリースファクターが結合し、ペプチド鎖を加水分解して放出する。終止コドン変異はフレームの延長や短縮を引き起こし、機能欠失タンパク質の原因となる。ウイルスや細菌にはリプログラムされた終止コドンを利用して遺伝情報を圧縮する例がある。分子医薬では終止コドンを読み飛ばす薬剤やゲノム編集による修復が研究されている。
コドン冗長性
20種類のアミノ酸に対して64種類のコドンが存在するため、複数のコドンが同じアミノ酸を指定する現象。第3塩基のワブリングが代表的要因で、遺伝的ロバストネスと翻訳速度調節に寄与する。冗長性により一塩基変異が無害となる場合が多く、進化的柔軟性を高める。生物種ごとに冗長コドンの使用頻度が異なり、遺伝子発現効率と対応するtRNA量が連動している。合成遺伝学では冗長コドンを再割り当てして新規アミノ酸や機能を導入する試みが進む。