1969年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

ウイルスの複製機構と遺伝的構造に関する発見

受賞者

マックス・デルブリュック
マックス・デルブリュック

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

アルフレッド・ハーシー
アルフレッド・ハーシー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

サルバドール・エドワード・ルリア
サルバドール・エドワード・ルリア

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

ウイルスは、とても小さな生き物のようなもので、自分だけでは増えることができません。マックス・デルブリュックさんたちは、ウイルスが細菌の中でどのように自分のコピーをつくるかを調べました。彼らは「バクテリオファージ」という、細菌にくっつくウイルスを使いました。ファージは細菌に取りつくと、自分の設計図(DNA)だけを注入し、細菌の仕組みを乗っ取ります。そして細菌の中でたくさんの新しいウイルスが作られ、最後には細菌が破裂してウイルスが飛び出します。このしくみを明らかにしたことで、ウイルスの仕組みや遺伝の勉強が大きく進みました。

関連キーワード

バクテリオファージ

バクテリオファージは細菌に感染して増殖するウイルスである。頭部に DNA を収納し、尾部で細菌膜に穴を開けて遺伝子を注入する。感染後は宿主の代謝系を乗っ取り、数百個の子ファージを短時間で組み立てる。最終的に細菌は溶菌し、子ファージが周囲に放出される。構造が単純で遺伝操作が容易なため、DNA 研究の主要モデルとして用いられてきた。

一段階増殖曲線

一段階増殖曲線はウイルス感染後のウイルス粒子数を時間ごとに測定して描く実験法である。デルブリュックらは吸着後に未吸着ファージを除去し、一定間隔で希釈・滴定した。結果は潜伏期、増幅期、定常期の三相に分かれ、複製サイクルを定量的に可視化した。この方法によりファージが同期的に爆発的増殖することが示された。今日もウイルス動態解析の基本プロトコルとして広く使われている。

Luria–Delbrück試験

Luria–Delbrück試験は突然変異が環境誘導ではなく確率的に発生することを示した古典的実験である。複数の独立培養を増殖させた後ファージを加え、生残コロニー数のばらつきを比較した。ポアソン分布を超える大きな分散は変異が感染以前に起こる証拠とされた。零項確率法や最尤推定によって突然変異率が定量化された。この概念は進化速度や抗生物質耐性研究の基盤になった。

ハーシー=チェイス実験

ハーシーとチェイスのミキサー実験は DNA が遺伝物質であることを決定づけた。T2 ファージの DNA を32P、タンパク質を35Sで標識し、大腸菌に感染させた。強い攪拌でファージ殻を除去すると32Pは細菌内に、35Sは外部に残った。DNA だけが子ファージ形成に寄与することが示され、分子遺伝学の転換点となった。この成果は後の二重らせんモデルや遺伝暗号解読の土台となった。

遺伝子地図

遺伝子地図は染色体やウイルスゲノム上の遺伝子の相対的位置関係を示す。ファージでは組換え頻度を用いて高分解能マップが作成され、遺伝子機能領域が細分化された。デルブリュック派は補完テストと交差試験を組み合わせ、T4 ファージで100以上の遺伝子座を同定した。これらの地図は後に DNA 塩基配列と照合され、遺伝距離と物理距離の変換に役立った。精密な遺伝子位置情報は現在のゲノム編集技術の前提である。

DNA複製

DNA複製は細胞やウイルスが遺伝情報を正確にコピーする過程である。ファージ研究によりセミコンザーバティブ複製がウイルスにも適用されることが示された。RNAプライマー合成、DNAポリメラーゼ伸長、終末時のパッケージングなどの段階が段階的に解明された。これらの知見はがん化機構の理解や抗ウイルス薬開発に応用されている。複製エラー計測法は進化速度や耐性獲得研究に欠かせない。