1971年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

ホルモンの作用機作に関する発見

受賞者

エール・サザランド
エール・サザランド

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体では「ホルモン」という化学物質がメッセージを運びます。エール・サザランド博士は、ホルモンが細胞に合図を送るとき、細胞の中で「cAMP(シーエーエムピー)」という小さな分子がスイッチのように働くことを見つけました。この仕組みを見つけたことで、ホルモンがどのように血糖を上げたり、心臓を速くしたりするかがわかりました。これは玄関のインターホン(ホルモン)が鳴ると家の中のブザー(cAMP)が鳴って皆に知らせるようなものです。この発見は、新しいおくすりを作るときにもとても大切なヒントになりました。

関連キーワード

セカンドメッセンジャー

細胞外シグナル(ホルモンや神経伝達物質など)を受容体が受け取った後、細胞内で情報を仲介する小分子。cAMPやCa²⁺、IP₃などが代表例である。少量のホルモンに対して大量生成されるため、シグナルを増幅する役割を持つ。複数の標的タンパク質を同時に制御し、迅速で協調的な生理応答を引き起こす。異常なセカンドメッセンジャー産生はがんや代謝疾患の原因となりうる。

cAMP

サイクリックAMPとも呼ばれる環状ヌクレオチドで、ATPからアデニル酸シクラーゼによって合成される。ホルモン刺激時に濃度が急上昇し、主にPKAを活性化してリン酸化カスケードを開始する。代謝制御や記憶形成、心筋収縮など多彩な機能を持つ。細胞内ではフォスフォジエステラーゼによりAMPへ分解され、シグナルが終了する。多くの医薬品がcAMP産生や分解を調節することで作用を発揮する。

アデニル酸シクラーゼ

細胞膜に埋め込まれた酵素で、ATPからcAMPを産生する反応を触媒する。Gタンパク質共役受容体(GPCR)に結合したGsやGiにより活性が増減する。複数のアイソフォームが存在し、組織ごとに発現パターンが異なる。活性の過剰または不足は心不全や内分泌異常など病態に直結する。薬理学的阻害剤や遺伝子操作を用いた研究でシグナル伝達網の中心酵素として重要視されている。

タンパク質キナーゼA

cAMP依存性キナーゼとも呼ばれ、cAMPが結合すると調節サブユニットから触媒サブユニットが遊離し活性化される。基質タンパク質のセリン/スレオニン残基をリン酸化し、代謝酵素や転写因子の活性を制御する。四量体構造が典型で、RI型とRII型の二系統が存在する。核内移行型アキュチュエータとして遺伝子発現を直接変化させることもある。PKAの変異や誤調節はクッシング症候群など内分泌疾患を引き起こす。

シグナル伝達

細胞外の刺激を受容体が受け取り、化学的・物理的変換を経て細胞内応答へ結び付ける一連の過程を指す。リガンド結合、セカンドメッセンジャー生成、キナーゼカスケード、転写制御など多段階で構成される。サザランドの研究により、増幅と分岐という概念が系統立てて理解されるようになった。疾患ではどの段階の異常でもシグナル伝達ネットワーク全体に影響が波及する。創薬ではネットワーク上の要所を標的にして副作用を抑えつつ効果的な治療を目指す。

Gタンパク質

GTP結合タンパク質の略で、受容体からの情報をエフェクター酵素に伝える分子スイッチ。Gs、Gi、Gqなどのαサブユニットによりアデニル酸シクラーゼやホスホリパーゼCを制御する。GDP結合状態では不活性、GTPに置換されると活性化し、後にGTP加水分解でオフになる。サザランドのモデルを補完する形でロドベルらにより同定され、ノーベル賞を受賞した。Gタンパク質の変異はがんや遺伝性内分泌腫瘍の原因としても注目される。

グリコーゲン分解

肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンをグルコース-1-リン酸へ分解して血糖やエネルギー源を供給する過程。ホルモン刺激時、cAMP経由でホスホリラーゼキナーゼが活性化し、最終的にグリコーゲンホスホリラーゼをONにする。サザランドはこの反応系をモデルとしてセカンドメッセンジャー概念を確立した。過度なグリコーゲン分解は糖尿病の高血糖要因となる。逆に分解障害は糖原病として蓄積による筋障害や肝腫大を引き起こす。

ホルモン受容体

ホルモンを特異的に結合し、細胞内シグナルを開始するタンパク質。膜貫通型(GPCRなど)と核内型(ステロイド受容体など)に大別される。サザランドの研究で、膜受容体がアデニル酸シクラーゼを遠隔調節するという概念が導入された。受容体の失活や過剰発現は内分泌疾患やがんに関与する。受容体作動薬・遮断薬は今日の薬物治療の中心的カテゴリーとなっている。