1974年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
細胞の構造的機能的組織に関する発見
受賞者
ベルギー
ベルギー
アメリカ合衆国
解説
私たちの体や動物、植物はすべて「細胞」というとても小さな部屋の集まりでできています。アルベルト・クラウデ、クリスチャン・ド・デューブ、ジョージ・パラーデの3人は、その部屋の中を超強力な顕微鏡でのぞき込み、細胞の地図をつくりました。彼らは細胞をミキサーでかき混ぜて遠心分離し、部品ごとに分けて調べる方法も考え出しました。その結果、タンパク質工場の「リボソーム」や、不要なものを分解する「リソソーム」など、いろいろな働きを持つ小さな器官が見つかりました。細胞の中がただのゼリーではなく、工場やごみ処理場、倉庫がそろった町のように見えるようになったのです。この発見は、どうして病気になるのか、薬がどこで効くのかを調べる手がかりにもなりました。3人の研究は、生き物のひみつを大きく明らかにした“細胞探検”だったと言えます。
関連キーワード
細胞分画法
細胞を破砕し遠心分離によって大きさや密度の違うオルガネラを順番に分ける手法。クラウデが改良したことで、ミトコンドリア、リソソーム、リボソームなどを個別に取り出して機能解析できるようになり、細胞内の役割分担が明確になった。
電子顕微鏡
光の代わりに電子線を使って試料を拡大観察する装置。波長が短いためナノメートル以下の解像度が得られ、パラーデはこの方法でリボソームやゴルジ体を可視化した。細胞構造研究の決定的手段となり、現在はクライオ電子顕微鏡へと発展している。
リボソーム
タンパク質合成を行う分子機械で、RNAとタンパク質から成る巨大複合体。パラーデが粗面小胞体の表面に密集する顆粒として初めて同定し、翻訳の場が特定された。現在も抗生物質開発や分子進化研究の重要ターゲットである。
リソソーム
加水分解酵素を多数含み、老廃物や細胞成分を分解する酸性小胞。ド・デューブが酸性ホスファターゼ活性の画分を調査して発見した。リソソーム病やオートファジーの研究で中心的な役割を果たす。
ペルオキシソーム
過酸化水素を生成・分解する酸化酵素を含むオルガネラ。ド・デューブがD-アミノ酸酸化酵素をマーカーに同定し、脂肪酸β酸化や活性酸素処理に重要であることを示した。遺伝性代謝疾患や老化研究とも関係が深い。
ゴルジ体
タンパク質や脂質を修飾・仕分けする膜スタック構造。パラーデのEM写真でシス側からトランス側への順序立った袋状構造が明瞭となり、分泌経路の中継点として機能することが理解された。細胞輸送ネットワークの要として研究が続く。
小胞体
核膜と連続し、タンパク質合成(粗面)や脂質代謝(滑面)を担う分岐状膜系。クラウデとパラーデは分画法と電子顕微鏡でその広大なネットワークを描き、細胞内物流の出発点であることを示した。カルシウム蓄積や品質管理にも重要。
超遠心機
毎分数万〜十数万回転で試料を回転させ、巨大な遠心力を発生させる装置。クラウデの改良型によりオルガネラを速度勾配・密度勾配両方で分離することが可能になり、細胞生化学の幕を開けた。現在はウイルス精製やナノ粒子解析にも使われる。
細胞内輸送
合成されたタンパク質や脂質をオルガネラ間で運ぶプロセス。パラーデのパルスチェイス実験がシークレットリーパスウェイの概念を確立し、後のSNAREタンパク質やコートタンパク質研究へとつながった。神経伝達やホルモン分泌を理解する基盤である。
細胞構造機能統合
オルガネラや細胞骨格がネットワークを形成し、それぞれが役割を分担しながら生命活動を達成するという考え方。1974年のノーベル賞はこの統合的視点の確立を評価した。現在のシステム生物学やマルチスケールイメージングは、この概念を継承・発展させている。