1977年ノーベル生理学・医学賞(1)

受賞理由

脳のペプチドホルモン産生に関する発見

受賞者

ロジェ・ギルマン
ロジェ・ギルマン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

アンドリュー・シャリー
アンドリュー・シャリー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体は「ホルモン」という小さな手紙を使って、心臓や骨などに命令を送っています。ギルマンさんとシャリーさんは、その手紙の一部が脳のとても小さな場所でつくられていることを調べました。ここは「視床下部」と呼ばれ、体の成長・温度・力の出し方を決めるスイッチの役割をしています。二人は、脳が体全体に命令を出すしくみを初めてはっきり示しました。この発見のおかげで、背が伸びない病気やホルモンのバランスがくずれる病気の治療が進みました。今では学校の理科の教科書にも載るほど大切な知識になっています。

関連キーワード

視床下部

脳の底部に位置し、自律神経や内分泌の統合中枢として働く。ここで作られる放出ホルモンが下垂体に指令を送り、成長・代謝・生殖など多彩な生理機能を調節する。体温や摂食行動、概日時計も制御するため「体内の司令塔」と呼ばれる。ギルマンとシャリーは、この小器官が神経ペプチドを分泌する能動的な分泌腺であることを実験的に示した。近年は光遺伝学やCa2+イメージングで神経回路レベルの機能解明が進む。動物個体のストレス応答や行動変容を研究する上でも不可欠なターゲットである。

放出ホルモン

下垂体前葉ホルモンの分泌を刺激あるいは抑制する短いペプチド。TRHやGnRHのほか、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)、GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)などが代表例である。分泌は神経パルスとして周期的に起こり、末梢ホルモンのフィードバックで調節される。薬理学的に合成アゴニスト・アンタゴニストが開発され、内分泌疾患治療やがんホルモン療法で利用される。放出ホルモン研究は神経系と内分泌系をつなぐ新分野「神経内分泌学」を確立した。今日もストレス反応や代謝シグナルの理解に不可欠である。

GnRH

性腺刺激ホルモン放出ホルモンで、下垂体からLHとFSHを分泌させるデカペプチド。脈打つような放出パターンが思春期発来や月経周期を決定する。合成GnRHアゴニストは持続投与で受容体を脱感作させ、前立腺がんや子宮筋腫を抑制する。一方、アンタゴニストは即時効果を持ち体外受精の排卵調整に使用される。進化的には魚類から哺乳類まで強く保存され、内分泌進化のモデル分子として研究される。神経発生学ではGnRHニューロンの移動障害がクラインフェルター症候群などの原因になることが示されている。

TRH

甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンで、わずか3残基(pGlu-His-Pro-NH2)から成る最短クラスの生理活性ペプチド。下垂体からTSHとプロラクチンを分泌させ、代謝亢進や乳汁分泌を制御する。臨床では下垂体機能検査の負荷試験薬として用いられ、甲状腺機能低下症の診断補助になる。中枢神経にも作用し、覚醒促進や抗うつ効果など多面的な薬理作用が報告されている。合成容易なため、ペプチド医薬の黎明を象徴するモデル分子とされる。現在もTRHアナログの脳血管透過性改良が研究されている。

神経内分泌学

神経系と内分泌系が協調して生理機能を制御する学際領域。放出ホルモンの発見により、電気信号だけでなくペプチドも情報伝達に使われることが証明された。研究対象は視床下部‐下垂体系にとどまらず、腸管ホルモンや免疫系サイトカインとのクロストークにも広がっている。最新手法として光遺伝学、シングルセルRNAシーケンス、脳スライス Ca2+ イメージングなどが導入され、細胞レベルの動態が可視化されつつある。臨床応用はストレス障害、代謝症候群、思春期異常など多岐にわたる。理論的にはホメオスタシス維持の数理モデル構築も進む。

クロマトグラフィー

化合物を分離・精製する分析化学の基幹技術。固定相と移動相の分配係数の違いを利用し、ペプチドやタンパク質、代謝物を高純度で回収できる。ギルマンとシャリーはイオン交換、ゲルろ過、逆相など複数のクロマト法を連続使用し、ナノグラム量の放出ホルモンを抽出した。その手法は現在のバイオ医薬品製造に直結し、モノクローナル抗体やワクチン原薬の製造工程にも応用される。質量分析検出器とのオンライン接続で、分取と同時に構造同定が可能となった。クロマトグラフィーは生命科学研究に不可欠なインフラ技術と言える。

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