1982年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

プロスタグランジンおよびそれに関わる生物学的活性物質の発見

受賞者

スネ・ベリストローム
スネ・ベリストローム

スウェーデンスウェーデン

ベンクト・サミュエルソン
ベンクト・サミュエルソン

スウェーデンスウェーデン

ジョン・ベーン
ジョン・ベーン

イギリスイギリス

解説

私たちの体の中には、情報を運ぶ小さな「手紙」のような物質がたくさんあります。その一つが「プロスタグランジン」と呼ばれる脂の仲間で、血管を広げたり熱や痛みの信号を出したりします。1982年にノーベル賞を受けた3人の科学者は、この物質を初めて見つけ、どのように作られるかを調べました。彼らの発見のおかげで、風邪のときに飲む解熱鎮痛剤がどう効くのかを理解できるようになりました。プロスタグランジンを上手にコントロールすると、ぜんそくや心臓の病気を治す手助けにもなると分かってきました。身近な薬が生まれるきっかけを作った、とても大切な研究です。

関連キーワード

プロスタグランジン

プロスタグランジンはエイコサノイドの一種で、局所的に合成され数秒から数分で分解されるため「パラクリンホルモン」とも呼ばれます。血管拡張、平滑筋収縮、発熱、痛覚増強など多彩な作用を示します。アラキドン酸がCOXによってPGG2、PGH2へ変換された後、各種シンターゼでPGE2やPGI2などに分岐します。臨床では潰瘍予防薬や分娩誘発剤、肺高血圧症治療薬として利用されています。過剰または欠乏は炎症性疾患や循環器疾患、がんの進展にも関与します。

シクロオキシゲナーゼ

シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸を過酸化物PGG2へ酸化する二機能性酵素で、プロスタグランジン合成の律速段階を担います。COX-1は恒常的に発現し胃粘膜保護や血小板機能を維持します。COX-2はサイトカインや成長因子で誘導され、炎症やがんの進展に関与します。アスピリンはセリン残基をアセチル化してCOX活性を不可逆的に阻害します。選択的COX-2阻害薬は鎮痛効果を保ちながら胃腸障害を減らすことを目指して開発されました。

アラキドン酸

アラキドン酸はリン脂質中にエステル結合で蓄えられる20炭素4重結合の多価不飽和脂肪酸です。ホスホリパーゼA2により遊離されると、COXやリポキシゲナーゼ(LOX)経路で代謝されます。COX経路ではプロスタグランジンとトロンボキサンが、LOX経路ではロイコトリエンとリポキシンが生成します。膜流動性やシグナル伝達に影響を与える必須脂肪酸の前駆体でもあります。食事由来のリノール酸から体内で生合成されますが、炎症状態で顕著に消費されます。

トロンボキサン

トロンボキサンA2(TXA2)は血小板で産生されるエイコサノイドで、強力な血小板凝集と血管収縮を誘発します。TXA2は非常に不安定で、数十秒以内に加水分解してTXB2となります。トロンボキサン合成酵素はPGH2を環化してTXA2へ変換します。アスピリンは血小板のCOX-1を不可逆的に阻害しTXA2生成を抑制するため抗血栓作用を示します。PGI2とのバランスが血栓形成と血流調節の鍵となります。

プロスタサイクリン

プロスタサイクリン(PGI2)は血管内皮で合成され、強力な血管拡張と血小板凝集抑制作用を持ちます。不安定で半減期は数分以内ですが、IP受容体を介しcAMPを上昇させて作用します。肺動脈性高血圧症の治療薬としてPGI2アナログが臨床使用されています。PGI2はTXA2と拮抗的に働き、生体内で血栓形成を制御します。内皮障害でPGI2が低下すると動脈硬化や血栓症のリスクが高まります.

ロイコトリエン

ロイコトリエンは5-リポキシゲナーゼ経路で生成するエイコサノイドで、気管支収縮や白血球遊走を促進します。LTC4、LTD4、LTE4はシステイニルロイコトリエンと呼ばれ、喘息発作の主要メディエーターです。LTB4は好中球の強力な走化性因子として働きます。ロイコトリエン受容体拮抗薬は気管支喘息治療に広く使用されています。PG経路とのクロストークが炎症の強度と期間を決定します。

エイコサノイド

エイコサノイドは20炭素脂肪酸を基盤とする生理活性脂質の総称で、プロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどが含まれます。ほぼすべての細胞が数秒で合成でき、局所的に作用して迅速なシグナルを伝えます。合成酵素群は細胞内カルシウムやリン酸化によって厳密に制御されています。エイコサノイドネットワークは免疫、血液凝固、神経伝達など多岐にわたる生理過程を調整します。異常な産生は慢性炎症、がん、代謝性疾患に関与します。

非ステロイド性抗炎症薬

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はCOXを阻害してプロスタグランジン合成を減少させ、鎮痛・解熱・抗炎症作用を示します。アスピリンは不可逆的阻害剤で、低用量でも血小板TXA2を長時間抑制します。イブプロフェンやナプロキセンは可逆的阻害剤で、疼痛管理に広く用いられます。長期使用による胃潰瘍や腎障害が問題となり、選択的COX-2阻害薬の開発が行われました。PG経路理解がNSAIDsの改良に大きく貢献しました。

血小板凝集

血小板凝集は血管損傷時に血小板が互いに結合して血栓を形成する過程です。TXA2は凝集を促進し、PGI2はcAMPを上昇させて抑制します。アスピリンはTXA2産生を抑えるため心筋梗塞や脳卒中予防に用いられます。PGバランスの乱れは血栓症や出血傾向の一因となります。プロスタグランジン研究は凝固管理と抗血栓療法の基盤を提供しました。

炎症

炎症は感染や損傷に対する生体防御反応で、発赤、熱感、腫脹、痛みを特徴とします。PGE2は発熱と疼痛を媒介し、LTB4は好中球を呼び寄せます。COX-2誘導とロイコトリエン産生は急性炎症のキーイベントです。プロスタグランジン阻害剤やロイコトリエン拮抗薬は炎症性疾患治療の主要戦略です。脂質メディエーターの制御は慢性炎症疾患の新規治療標的として注目されています。