1985年ノーベル生理学・医学賞
受賞理由
コレステロール代謝の調節に関する発見
受賞者
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国
解説
人の体には「コレステロール」という脂(あぶら)の仲間があります。コレステロールは細胞の壁を作ったり、体のホルモンを作ったりする大切な材料です。でも多すぎると血管がかたくなり、病気のもとになります。ブラウンさんとゴールドスタインさんは、コレステロールが体の中でどうやってちょうどよい量に保たれているのかを調べました。特に血液の中を流れる"LDL"という粒と、それをキャッチする「受容体」というアンテナの働きを見つけたのです。この働きがうまくいかないとコレステロールがたまりやすくなることを示し、病気のしくみの理解と薬作りに役立ちました。
関連キーワード
低密度リポタンパク質(LDL)
LDLはコレステロールを肝臓から全身へ運ぶ粒子で、直径20〜25 nmほどの球状構造を持つ。主成分はアポタンパク質B-100とコレステロールエステルである。血中LDLが過剰になると血管壁に沈着し、動脈硬化斑を形成する。LDL受容体に結合して細胞に取り込まれることでレベルが調節される。したがってLDL量は心血管リスクの重要な指標であり、多くの薬物療法のターゲットとなっている。
LDL受容体
LDL受容体は細胞膜貫通型糖タンパク質で、N末端の配列特異的リガンド結合ドメインとNPXYモチーフを含むC末端細胞内ドメインを持つ。LDL結合後にクラスリン被覆小胞でエンドサイトーシスを受け、エンドソームで酸性化によりリガンドを放出する。受容体はリサイクリングされ、LDLはリソソームで分解される。遺伝子変異は受容体合成、輸送、結合、内在化、リサイクリングのいずれかを障害し、FHを引き起こす。受容体発現はSREBP経路によってコレステロール濃度に応答して調節される。
家族性高コレステロール血症
FHは常染色体優性遺伝形式をとる脂質異常症で、LDLコレステロールが著しく上昇する。ホモ接合体では幼少期からアテローム性動脈硬化が進行し、未治療では思春期前に心筋梗塞を起こすことがある。原因遺伝子としてLDLR、APOB、PCSK9、LDLRAP1などが知られ、LDLR変異が最も多い。スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬、LDL吸着療法など多角的治療が行われる。ブラウンとゴールドスタインの研究は疾患メカニズムの理解と診断基準の確立に決定的役割を果たした。
受容体メディエーターエンドサイトーシス
受容体メディエーターエンドサイトーシスはリガンドが特異的受容体に結合した後にクラスリン被覆小胞として取り込まれる経路である。LDLの他にトランスフェリン、エピデルミス成長因子(EGF)、インスリンなど多様な分子がこの機構で細胞内へ運ばれる。エンドソーム内のpH変化がリガンド解離を誘導し、受容体リサイクリング効率を左右する。経路の破綻は高コレステロール血症や貧血、細胞増殖異常などを引き起こす。細胞内輸送研究やドラッグデリバリー技術の基盤概念となっている。
コレステロール恒常性
コレステロール恒常性は生合成、食事吸収、輸送、細胞への取り込み、エステル化、胆汁排泄など多段階のバランスで成り立つ。細胞内レベルはSREBP-SCAP系、LXR/RXR系、AMPKシグナルなどによって転写・翻訳・分解が協調的に制御される。LDL受容体数の変動は血中LDL濃度をダイナミックに変える主要因である。肝臓は中心的調節臓器として胆汁酸合成とVLDL分泌を担う。恒常性破綻は動脈硬化、胆石、脂肪肝など多彩な病態をもたらす。
HMG-CoA還元酵素
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoA還元酵素はメバロン酸経路の律速酵素で、コレステロール生合成の鍵を握る。スタチン系薬剤はこの酵素の競合阻害剤として設計され、LDLコレステロール低下の第一選択薬となった。酵素活性はSREBPによる転写制御のほか、リン酸化/脱リン酸化や分解促進によっても調節される。過剰なコレステロールはER膜に結合して酵素の分解を促進し、負のフィードバックを形成する。研究はイソプレノイド合成、蛋白質プレニル化など関連経路にも波及し、がんや感染症治療の創薬ターゲットとしても注目されている。
動脈硬化
動脈硬化は動脈壁に脂質が沈着し、プラークと呼ばれる病変を形成する慢性炎症性疾患である。LDLの酸化や変性がマクロファージの泡沫細胞化を誘導し、プラークのコアを構築する。進行すると線維性被膜が破綻し、血栓が形成されて心筋梗塞や脳卒中を引き起こす。脂質管理、血圧コントロール、禁煙、運動が予防の柱となる。ブラウンとゴールドスタインの研究は病因論に分子レベルの裏付けを与え、スタチンの臨床応用で心血管死亡率を大幅に低下させた。