1987年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

抗体の多様性に関する遺伝的原理の発見

受賞者

利根川進
利根川進

日本日本

解説

私たちの体には、細菌やウイルスなどのばい菌をやっつける“抗体”というたんぱく質があります。抗体は無数の種類があり、ばい菌の形にぴったり合わせてくっつきます。利根川進先生は、どうして体がこんなにたくさんの抗体を作れるのかを調べました。すると、体の中の遺伝子がパズルのように組み替わって、新しい抗体の設計図を作っていることを発見しました。このおかげで、私たちは毎日違うばい菌が来ても守られるのです。

関連キーワード

抗体

免疫系が病原体や毒素を認識して無力化するために分泌するY字型たんぱく質。可変領域で抗原に特異的に結合し、定常領域で補体活性化や食細胞への結合を行う。感染防御だけでなく、アレルギーや自己免疫にも関与し、医薬品としても利用される。抗体療法や診断薬開発の基礎になる重要分子である。

遺伝子再構成

体細胞でDNA配列が切断・再接合され、遺伝子順序が変化する現象。免疫系では抗体やT細胞受容体遺伝子が再構成され、多様な受容体レパトアを生み出す。可逆的ではなく、各リンパ球クローンに固有の配列が固定される。腫瘍マーカーやクローン追跡にも応用される。

V(D)J組換え

B細胞とT細胞で起こる、V・D・Jセグメントを組み合わせて可変領域を構築する酵素的過程。RAG1/2複合体がRSSを認識して二本鎖切断を導入し、非相同末端結合により再接合が行われる。12/23ルールにより正しいセグメント組み合わせが保証され、多数の組み合わせと接合部多様性が抗体・TCRの多様性を形成する。

免疫グロブリン遺伝子

抗体をコードする遺伝子群で、重鎖と軽鎖のV、D、J、Cセグメントから構成される。胚細胞ではセグメントが離れて存在し、B細胞成熟時に再構成される。アイソタイプスイッチや体細胞高変異などの追加改変を受け、抗体の機能と親和性をさらに高める。遺伝子配列解析はワクチン設計や抗体医薬開発に必須である。

B細胞

骨髄で分化するリンパ球で、抗体を産生する主要な免疫細胞。表面にBCRを持ち、特定抗原を認識すると活性化し形質細胞へ分化する。胚中心で体細胞高変異とクラススイッチを経て高親和性抗体を作る。ワクチン効果の維持や自己免疫疾患の発症に深く関わる。

適応免疫

生体が特定の異物を記憶し、次回の侵入時に素早く強い反応を示す免疫系。B細胞とT細胞が主役で、抗体産生と細胞性免疫を担う。V(D)J組換えやクローン増殖により多様な受容体が生成され、抗原特異性が獲得される。予防接種の原理であり、がん免疫療法にも応用される。

可変領域

抗体やTCRのN末端側に位置する領域で、抗原結合部位を形成する。アミノ酸配列が多様で、HCDR1-3やLCDR1-3など高変異領域が抗原特異性に寄与する。V(D)J組換えと体細胞高変異で配列が変化し、親和性成熟を促進する。構造生物学では可変領域の立体構造解析が薬物設計に利用される。

クローン選択説

抗原に特異的なリンパ球クローンが刺激を受けて増殖・分化するという免疫学の基本理論。バー넷が提唱し、利根川の遺伝子再構成の発見が分子レベルの裏付けを与えた。理論は自己非自己識別や免疫寛容の概念とも結びつき、ワクチン学からがん免疫療法まで幅広く応用されている。