1995年ノーベル生理学・医学賞

受賞理由

初期胚発生における遺伝的制御に関する発見

受賞者

エドワード・ルイス
エドワード・ルイス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト
クリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト

ドイツドイツ

エリック・ヴィーシャウス
エリック・ヴィーシャウス

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちが生まれる前、お母さんのおなかの中で体は小さな点から始まります。その点はたくさんの細胞に分かれ、頭やお腹、手足などの場所を決めて成長します。ルイスさん、ニュスライン=フォルハルトさん、ヴィーシャウスさんは、ハエの仲間「ショウジョウバエ」を使って、その場所決めをする『設計図のような遺伝子』を見つけました。設計図が壊れると、羽が足になったり体の模様が変わったりします。これを詳しく調べることで、人や動物が正しい形になるしくみがわかりました。この研究は病気の原因を探したり、けがを治す方法を考えたりする手がかりにもなっています。

関連キーワード

ホメオティック遺伝子

生物の体節や器官がどの位置に形成されるかを決める遺伝子群。変異すると羽が足になるなど、器官のアイデンティティが入れ替わる。DNA上ではクラスター状に配置され、前後軸に沿って発現順序が連動する「共線性」を示す。ヒトを含む脊椎動物でもHoxクラスターとして高い保存性を持つ。進化による形態多様化の鍵として研究されている。

Hox遺伝子

ホメオティック遺伝子のサブセットで、相同な180塩基のホメオボックス配列を持つ転写因子遺伝子。動物の頭から尾までの位置情報をコード化し、四肢や脊椎の形成を制御する。多細胞動物の進化過程で重複や転座を起こし、種ごとの体型差を生み出したと考えられる。発生異常やがんで異常発現が報告され、医学上の重要性も大きい。分子時計として系統解析にも利用される。

遺伝スクリーニング

ランダムに突然変異を導入し、表現型から責任遺伝子を同定する手法。ショウジョウバエでは短い世代時間と豊富な子が利点となり、大規模スクリーニングが可能。EMSやPエレメントなど多様な変異原を利用する。系統的解析により生物プロセスを網羅的に解明でき、機能未知遺伝子の発見に貢献する。医療応用としてはモデル動物での病態再現に不可欠。

ショウジョウバエ

体長約3mmの小型ハエで、遺伝学と発生学の最重要モデル生物。完全なゲノム情報、豊富な変異系統、強力な遺伝子操作技術が整備されている。ヒトとの遺伝子相同性は約60%と高く、多くの疾病関連遺伝子を共有する。世代時間が約10日と短く、飼育コストも低い。ノーベル賞を生んだ研究成果が多数あり、基礎から応用まで幅広く利用される。

体節形成

胚が繰り返し構造(体節)を持つモジュール化された体制を作る過程。昆虫では背中の縞模様、脊椎動物では脊椎の原基ソンイトームに相当する。遺伝子カスケードにより粗大→微細の順に境界が決定される。リズミカルな『セグメントタイマー』やモルフォゲン勾配など多層的制御が関与。進化的な改変が多様な体型を生み出す要因と考えられる。

ギャップ遺伝子

胚の大きな領域を規定する早期発現遺伝子群。変異すると複数の隣接する体節が丸ごと欠失する。bicoidやhunchbackの濃度情報を読み取り、Krüppelやknirpsなどが代表例。タンパク質は転写因子として次段階のペアルール遺伝子を制御する。濃度勾配に対する閾値応答がパターン形成の基本モデルとして研究される。

ペアルール遺伝子

胚の体節を1おきに制御し、変異すると偶数または奇数の縞が消失する遺伝子群。even-skipped、fushi tarazuなどが代表的。周期的な転写領域は調節エレメントの集合体によって決まり、ギャップ遺伝子から入力を受ける。産生される転写因子が次段階の部分極性遺伝子発現を細分化する。リズムと空間情報を統合するモデル系として知られる。

部分極性遺伝子

各体節内部で前後の極性を決定する遺伝子群。engrailedやwinglessなど細胞間シグナル分子を多く含む。変異すると体節境界があいまいになり鏡像対称の重複が起こる。ヘッジホッグ経路など進化的に保存されたシグナル伝達を介して細胞運命を固定化する。器官形成やがんに関与するシグナリング研究の礎となった。

母性効果遺伝子

母親の卵細胞に蓄えられたmRNAやタンパク質が胚発生の最初のパターンを決定する遺伝子群。母親の遺伝型が胚表現型に反映されるため、メンデル遺伝から外れる挙動を示す。bicoidやnanosが代表例で、前後極に濃度勾配を形成する。これらは下流のgap遺伝子活性化・抑制スイッチとして機能する。初期発生の時空間制御を理解する鍵となる。

発生生物学

受精から成体まで、生物が形・機能を獲得する過程を研究する学問。細胞分化、パターン形成、器官発生などが主要テーマ。遺伝学、分子生物学、画像解析を統合し、近年はシングルセル解析や再生医療とも連携が深い。モデル生物で得られた知見はヒト医学へ橋渡しされ、再生医療やがん治療の新戦略を生む。進化の観点からは、形態多様性の基盤を解くEvo-Devoとして発展している。