2008年ノーベル生理学・医学賞(1)
受賞理由
子宮頸癌を引き起こすヒトパピローマウイルスの発見
受賞者
ドイツ
解説
私たちの体には「子宮」という、赤ちゃんを育てる大切な場所があります。そこにできる病気の一つが子宮頸がんです。ハラルド・ツア・ハウゼン博士は、とても小さなウイルス「ヒトパピローマウイルス(HPV)」がこのがんを引き起こすことを突き止めました。それは、犯人が見えない迷路の中に隠れているのを見つけるような大発見でした。このおかげで、体に入る前にHPVをブロックするワクチンが作られ、がんを予防できるようになりました。今では多くの国でこのワクチンが子どもたちを守っています。
関連キーワード
ヒトパピローマウイルス
HPVは二本鎖DNAをゲノムとする非エンベロープウイルスで、200種以上の遺伝的型がある。ハイリスク型(16,18など)はがん化に関与し、ローリスク型(6,11など)は尖圭コンジローマを引き起こす。感染は皮膚や粘膜の小さな傷から入り、免疫で排除されなければ長期潜伏する。がん組織ではウイルスDNAが宿主染色体に部分統合されることが多い。ワクチンは主にL1タンパク質を抗原とするVLPで中和抗体を誘導する。
子宮頸癌
子宮頸部の扁平上皮または腺上皮から発生する悪性腫瘍で、発展途上国では女性がん死亡原因の上位を占める。持続的HPV感染、とくに高リスク型が主因である。前がん段階としてCIN1〜3があり、細胞診とHPV DNA検査で早期発見が可能。ワクチン接種国では発生率が減少傾向にある。治療には外科手術、放射線、化学療法が組み合わされる。
HPVワクチン
L1カプシドタンパク質が自己集合したウイルス様粒子(VLP)を抗原とし、感染前に接種する予防ワクチンである。現在は2価、4価、9価製剤が承認され、対象型に対し90%以上の発がん予防効果を示す。筋肉内接種3回が標準だが、2回法や混合スケジュールも検討中。副反応は局所痛など軽微で、安全性は高い。集団免疫効果により男性の関連がん予防にも寄与する。
E6/E7オンコプロテイン
高リスク型HPVがコードする2つの早期タンパク質。E6はE6APと複合しp53を分解、E7はRbと結合しE2Fを解放する。これにより細胞周期が制御不能となり、ゲノム不安定性を誘導する。がん細胞はE6/E7発現に依存して生存するため、標的治療の候補となる。ワクチンやRNAiによるE6/E7抑制は前臨床段階で研究が進む。
ウイルスDNA統合
子宮頸がんではHPVの環状DNAが宿主染色体に部分的に組み込まれ、一部のウイルス遺伝子が欠落する。E2の切断によりE6/E7発現が暴走し、発がんに寄与する。統合部位は脆弱サイトや転写活性領域に偏ることがNGSで示された。統合イベントは腫瘍の単クローン性マーカーとして利用される。統合がない(エピソーム型)がんもまれに存在する。
スクリーニング検査
子宮頸がん予防の柱。従来のパップ細胞診に加え、HPV DNA検査やHPV mRNA検査が導入され感度が向上した。30歳以上ではHPV陰性であれば検査間隔を延長できる。前がん病変を早期に発見し、レーザー蒸散や円錐切除で治療する。ワクチン時代になってもスクリーニングは不可欠である。