2008年ノーベル生理学・医学賞(2)

受賞理由

ヒト免疫不全ウイルスの発見

受賞者

フランソワーズ・バレ=シヌシ
フランソワーズ・バレ=シヌシ

フランスフランス

リュック・モンタニエ
リュック・モンタニエ

フランスフランス

解説

私たちの血液には体を守る白血球がたくさんいます。でもヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、その中でも大切なCD4+T細胞に入りこみます。フランソワーズ・バレ=シヌシさんとリュック・モンタニエさんは、このウイルスを世界で初めて見つけました。彼らは患者さんの血液からウイルスを育て、顕微鏡で確かめました。この発見によって、エイズ(AIDS)の原因がわかり、検査と薬が作られました。いま、多くの人が治療を受け長く生きられるのは、この研究のおかげです。

関連キーワード

ヒト免疫不全ウイルス

HIVはレトロウイルス科レンチウイルス属に属するRNAウイルスで、逆転写酵素によりDNA化して宿主ゲノムに組み込まれる。大きくHIV-1とHIV-2があり、HIV-1が世界流行の主因である。ゲノムは約9.7 kbで、gag-pol-envの他に6つのアクセサリー遺伝子を持つ。CCR5またはCXCR4を共受容体とし、CD4+T細胞に感染する。急性感染、高ウイルス量、潜伏リザーバーが制御を困難にする。

エイズ

Acquired Immunodeficiency Syndrome(AIDS)はHIV感染の最終段階で、CD4+T細胞減少により日和見感染や悪性腫瘍が多発する。定義となる疾患にはニューモシスチス肺炎、カポジ肉腫などが含まれる。未治療の場合、多くの患者が10〜15年でAIDSに進行する。HAART導入後、発症と死亡率は大幅に低下した。依然として低所得国では主要死因の一つである。

逆転写酵素

HIVが有するRNA依存DNAポリメラーゼで、ウイルスRNAをcDNAへ転写し、続いてRNase H活性でRNAを除去する。1983年のウイルス分離ではRT活性測定が主要指標となった。ヌクレオシド系および非ヌクレオシド系RT阻害薬はHAARTの基盤である。エラー率が高く、HIVの多様性を生む要因ともなる。薬剤耐性変異の出現が治療モニタリングで重要視される。

CD4+T細胞

免疫応答の司令塔として機能するリンパ球。HIVはCD4分子にgp120で結合し感染するため、細胞が枯渇すると免疫低下を招く。正常値は約500–1500/µLだが、200/µL未満でAIDS指標疾患のリスクが急増する。抗ウイルス療法でCD4数が回復すると日和見感染も減少する。治療開始時のCD4値は予後予測に用いられる。

高活性抗レトロウイルス療法

1996年に確立された多剤併用療法で、通常2種のNRTI+1種のPIまたはNNRTIで構成される。現在はINSTIやブースター併用の1日1錠レジメンも普及。ウイルス量を検出限界以下に抑え、免疫機能を回復させる。長期服用により代謝障害や腎障害など副作用が問題となる。治療成功には服薬アドヒアランスが不可欠。

レンチウイルス

ゆっくり進行する病気を引き起こすレトロウイルス亜科の総称。ヒトのHIV-1/2の他、ネコ、サル、ウシなど多様な宿主に存在する。全てのレンチウイルスが逆転写酵素・インテグラーゼ・プロテアーゼを共有し、複雑なアクセサリー遺伝子を持つ。長期潜伏と免疫逃避能力が高く、慢性感染を特徴とする。遺伝子治療ベクターとしても応用される。

潜伏感染リザーバー

抗ウイルス薬で抑えられてもHIV DNAを保持し続ける長寿命細胞群。主に休止状態のメモリーCD4+T細胞やマクロファージに存在し、薬剤中断でウイルスが再燃する原因となる。半減期は数十年と推定され、根治の最大の障害。ショック&キル、ブロック&ロック、遺伝子編集など多様なアプローチが試験中。リザーバー量の正確な計測技術も開発が進む。

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