2011年ノーベル生理学・医学賞(1)

受賞理由

自然免疫の活性化に関する発見

受賞者

ブルース・ボイトラー
ブルース・ボイトラー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ジュール・ホフマン
ジュール・ホフマン

フランスフランス

解説

私たちの体には「自然免疫」という、ばい菌を見つけてすぐに戦う仕組みがあります。ビューラーさんとホフマンさんは、この自然免疫が“スイッチ”で動き始めることを突き止めました。「Toll」や「TLR4」というたんぱく質が、ばい菌の持つ“旗印”を見分けて警報を鳴らします。これは火災報知器が煙を感じ取ってベルを鳴らすのと似ています。この発見によって、病気を早く防ぐ新しい薬やワクチンづくりが進みました。人やハエなど多くの生き物が同じ仕組みを持つことも分かりました。

関連キーワード

自然免疫

自然免疫は生まれつき備わる防御機構で、感染の数分〜数時間以内に作動します。形質細胞や抗体を必要とせず、マクロファージや好中球、補体系などが中心となります。病原体が共通してもつPAMPを感知し、炎症性サイトカインやケモカインを放出して局所に免疫細胞を呼び込みます。遺伝的に決まった反応なので記憶は形成しませんが、適応免疫が立ち上がるまでの橋渡しをします。自然免疫に異常があると、軽い感染でも重症化したり、逆に過度な炎症で組織障害を起こすことがあります。

Toll様受容体

Toll様受容体(TLR)は膜貫通型のパターン認識受容体ファミリーで、ヒトでは10種類が同定されています。各TLRは細菌のリポ多糖やウイルスRNA、CpG DNAなど異なるPAMPに特異的に結合します。配列に共通するTIRドメインを介してMyD88やTRIFにシグナルを伝達し、NF-κBやIRFを活性化します。活性化はサイトカイン放出、コスティムレーション分子発現、樹状細胞成熟といった下流イベントを誘発します。TLRの活性制御は自己免疫やアレルギー、感染症治療の標的として注目されています。

TLR4

TLR4はグラム陰性菌のリポ多糖(LPS)を主に認識するTLRファミリーの代表的メンバーです。補助分子MD-2と複合体を形成し、CD14とLBPがLPSを橋渡しします。受容体が二量体化するとMyD88およびTRIF依存経路が順番に動き、腫瘍壊死因子(TNF)やI型インターフェロンを産生させます。遺伝子多型によってTLR4応答が弱い人はグラム陰性菌感染に脆弱となり、逆に過剰応答は敗血症や慢性炎症を引き起こすことがあります。TLR4拮抗薬は敗血症やCOVID-19のサイトカインストームなど過度な炎症の抑制薬として試験されています。

リポ多糖

リポ多糖はグラム陰性菌外膜に存在する複合多糖脂質で、最外層のO抗原、コア糖、脂質Aで構成されます。脂質A部分が強い生物活性を持ち、免疫細胞のTLR4/MD-2複合体を刺激します。微量のLPSはワクチンアジュバントとして有用ですが、高濃度ではショックを引き起こします。精製度や化学修飾によって毒性を下げたモノホルフォリルLPSは安全なアジュバントとして既に臨床使用されています。LPS検出は医薬品汚染チェックにも利用され、カブトガニ由来のLAL試験が標準法となっています。

パターン認識受容体

PRRは病原体や損傷細胞がもつ共通分子パターン(PAMP, DAMP)を識別する受容体の総称です。TLR、RIG-I様受容体、NOD様受容体、C型レクチン受容体などが含まれます。PRR活性化は炎症性サイトカイン産生、オートファジー、インフラマソーム形成など多彩な応答を引き起こします。複数のPRRシグナルが統合されることで、病原体の種類や感染の場所に適した免疫反応が構築されます。新規PRRリガンドの探索は、ワクチンアジュバントや抗ウイルス薬の開発に直結しています。

NF-κB

NF-κBは炎症や免疫応答を制御する転写因子のファミリーで、p65/p50ヘテロ二量体が代表的です。安静時はIκBによって細胞質に留め置かれていますが、TLR刺激でIKK複合体がIκBをリン酸化・分解し活性化します。活性化されたNF-κBは核内でTNF, IL-6, IL-1βなど多くの免疫遺伝子の転写を誘導します。過剰なNF-κB活性は慢性炎症や癌の促進に関与し、逆に低すぎると感染防御が不十分になります。NF-κB経路を標的とする薬剤はリウマチや炎症性腸疾患などの治療薬として開発されています。

敗血症

敗血症は感染に対する制御不能な宿主反応で、多臓器不全を引き起こす致死的状態です。グラム陰性菌のLPSがTLR4を強力に刺激し、サイトカインストームを誘発する典型例として古くから研究されてきました。ビューラーのマウスモデルはLPS応答と遺伝子背景の関連を明らかにし、敗血症研究の礎となりました。近年は免疫麻痺期の存在が注目され、PRRシグナルの二相性制御が治療戦略の鍵とみなされています。迅速な抗菌治療に加え、TLR4阻害やサイトカイン吸着など宿主反応を調整する新規治療の臨床試験が進行中です。

同年の他の受賞業績