2015年ノーベル生理学・医学賞(1)
受賞理由
線虫の寄生によって引き起こされる感染症に対する新たな治療法に関する発見
受賞者
アイルランド,
アメリカ合衆国
日本
解説
川や土の中には、人や動物の体に入り込んで病気を起こす小さな「線虫」がいます。この虫は目ではほとんど見えませんが、体の中で増えてかゆみや失明などを引き起こします。キャンベルさんと大村さんは、土の中の細菌が作る特別な物質が線虫を倒すことを発見しました。その物質をもとに作られた薬「イベルメクチン」を年に1〜2回飲めば、線虫をほとんど退治できます。この薬のおかげで多くの人が失明や足のはれから守られるようになりました。
関連キーワード
線虫
線虫は線形動物門に属する寄生虫で、人や家畜の体内に侵入して栄養を奪います。オンコセルカ症やフィラリア症の原因となり、失明や象皮症を引き起こします。多くは昆虫ベクターを介して感染し、宿主体内で長期間生存します。自己複製しないため、再感染が重症化に関与します。寄生虫学と公衆衛生の両面で研究が進められています。
アベルメクチン
アベルメクチンはStreptomyces avermitilisが産生するマクロライド系天然物の総称です。8種の同族体が存在し、B1aが代表的です。線虫のグルタミン酸作動性Cl⁻チャネルを活性化し、麻痺を誘導します。動物用駆虫薬として1970年代に実用化されました。イベルメクチンの母体化合物として重要です。
イベルメクチン
イベルメクチンは22,23-ジヒドロアベルメクチンB1で、広域スペクトルの駆虫薬です。単回経口投与でミクロフィラリアを速やかに除去します。WHOと製薬企業の寄付により無償配布され、年間2億人以上が服用しています。疥癬や頭ジラミなど外部寄生虫治療にも応用が拡大しています。近年は抗ウイルス活性の探索も行われています。
河川盲目症
オンコセルカ症とも呼ばれ、黒バエが媒介するOnchocerca volvulus感染で起こります。ミクロフィラリアが眼組織に移動し、角膜混濁を介して失明を引き起こします。アフリカ中部で患者が集中し、経済活動の阻害要因となっています。イベルメクチンの年1回投与で伝播阻止が可能となり、根絶計画が進行中です。衛生教育とベクター対策も併用されています。
リンパ系フィラリア症
フィラリア虫がリンパ管に寄生し、慢性炎症で足や陰嚢が極端に腫れる病気です。感染は蚊が媒介し、120万人以上が象皮症などの後遺症に苦しんでいます。イベルメクチンとアルベンダゾールの併用投与が標準治療です。社会的スティグマと就労困難が大きな問題となります。世界的な排除目標は2020年代前半と設定されています。
Streptomyces avermitilis
放線菌の一種で、複雑なポリケチド合成系を持ちアベルメクチンを生産します。大村智が山梨県の土壌から分離しました。ゲノムは約9.0 Mbで、産業利用しやすいよう改変株も作出されています。本菌の研究は天然物創薬や微生物多様性の重要性を示しました。また合成生物学のモデルとしても注目されています。