1975年ノーベル化学賞(1)

受賞理由

酵素による触媒反応の立体化学的研究

受賞者

ジョン・コーンフォース
ジョン・コーンフォース

オーストラリアオーストラリア, イギリスイギリス

解説

私たちの体の中では、酵素という小さな働き者が分子を切ったり貼ったりしてくれます。分子には左右の手袋のような形があり、合わない形どうしはくっつきません。コーンフォース博士は、酵素がどちらの手の形を選ぶのかを詳しく調べました。どの方向から材料が組み込まれるかを突き止めることで、薬づくりに必要な“正しい手”だけを集める方法が分かりました。これにより、もっと安全で効き目の高い薬を作れるようになりました。

関連キーワード

立体化学

分子内の原子が三次元空間でどのように配置されているかを扱う化学の分野です。左右の手のように鏡像関係にあるキラル分子を区別します。反応経路によって生成される異性体の割合も説明します。医薬品では立体化学が薬効と副作用を大きく左右します。酵素は高度な立体化学制御を行う天然の触媒として注目されています。

酵素触媒

タンパク質やリボザイムが反応の活性化エネルギーを下げ、反応速度を大幅に高めます。基質認識ポケットは形だけでなく立体化学的にも厳密に選択的です。反応中心のアミノ酸残基が酸塩基や求核剤として働き、時に金属補因子が電子移動を助けます。コーンフォースの研究は、酵素が水素やメチル基をどちら側から付加・除去するかを示しました。これにより、人工酵素やバイオ変換技術の設計が加速しました。

キラリティー

鏡に映した像と重ね合わせられない性質を指し、手やネジに似た概念です。分子がキラルであると、対称性が崩れた二つのエナンチオマーが存在します。生体内酵素は通常、一方のエナンチオマーだけを認識します。誤った鏡像体は薬害を起こすこともあります。コーンフォースは酵素がキラリティーを選ぶ仕組みを実験的に証明しました。

同位体標識

炭素-13や重水素など質量が異なる安定同位体を分子内の特定位置に導入する技術です。NMRや質量分析で追跡できるため、反応メカニズムの解明に欠かせません。立体化学研究では、どの原子がどの面から反応に参加したかを証拠立てられます。コーンフォースは世界で初めて大規模な同位体標識を生合成解析に応用しました。現在では代謝フラックス解析やPETイメージングにも応用範囲が広がっています。

エナンチオ選択性

化学反応が2つの鏡像体のうち一方を優先的に生成する度合いを示す指標です。理論的最高値は100%eeで、製薬では90%以上が求められることが多いです。酵素は天然に高いエナンチオ選択性を示すため、グリーンケミストリーで重宝されています。コーンフォースの解析により、選択性の起源が遷移状態の立体障害にあることが明確になりました。これが不斉触媒設計の指標となりました。

生合成

生物が酵素を使って複雑な天然物質を合成する一連の化学反応のことです。例としてコレステロールや抗生物質の生成経路があります。立体化学は経路全体の方向性と選択性を左右します。コーンフォースはステロイド生合成で起こる環化と転位の立体経路を初めて詳細に追跡しました。その成果は天然物化学と代謝工学の基盤となりました。

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