1908年ノーベル物理学賞
受賞理由
光干渉に基づき鮮明に色を複製する手法(リップマン式天然色写真)
受賞者
フランス
解説
写真を撮るとき、ふつうはフィルムにインクのような染料を残して色を作ります。ガブリエル・リップマンさんは、絵の具を使わずに光の性質だけで色を写す方法を思いつきました。彼はフィルムの裏に鏡のように光を跳ね返す水銀を置きました。レンズから入った光は水銀で反射し、行きと帰りの波が重なって「波のしま模様」を作ります。そのしま模様は髪の毛よりずっと細かく、色ごとに間隔が変わります。フィルムを現像すると、そのしま模様が虹のように本物そっくりの色を見せます。こうしてできた写真は「リップマン写真」と呼ばれ、絵の具なしで自然の色を残す初めての写真になりました。このしくみは、あとでテレビやスマホの画面の仕組みを理解するヒントにもなりました。
関連キーワード
光干渉
光干渉は、2つ以上の光波が重なり合って互いに強めあったり打ち消しあったりする現象です。波の高さ(振幅)が同じ方向に重なると明るくなり、逆位相で重なると暗くなります。シャボン玉の虹色やCDの輝きは、薄い膜での干渉により波長ごとに反射が変わるために生じます。リップマン式写真では、入射光と水銀で反射した光が乳剤内部で干渉し、色ごとの“しま模様”として固定されます。干渉は今日、光ファイバー通信やレーザー測定、半導体リソグラフィなど、精密計測と情報技術の基盤となっています。
定在波
定在波は、進行波と逆方向の波が合成されて空間的に固定した節と腹を持つ波形です。ギターの弦を弾いたときに見える動かない振動パターンが典型例です。Lippmann写真では、波長ごとの定在波が乳剤の奥行き方向に形成され、腹の位置だけが強く感光します。その結果、λ/2周期で銀層が積み重なり、後にブラッグ反射を起こす立体格子が生まれます。定在波は音響工学や電波共振器でも使われ、共振周波数を決める重要な概念です。
リップマンプレート
リップマンプレートは、定在波干渉縞を記録・再生できる特別な写真乾板です。超微粒子銀塩乳剤と背面の水銀鏡によって構成され、現像後には多層反射構造が残ります。再生時には白色光を当てるだけで、ブラッグ条件に合う波長が選択的に反射するため、逆像が自発的に現れます。感度が低い欠点があるものの、色の忠実度と耐光性は染料方式を大きく上回ります。現在では反射型ホログラム媒体として再利用され、高効率の波長選択フィルターとして研究されています。
銀塩乳剤
銀塩乳剤は寒天質のゼラチン中に微細な塩化銀・臭化銀結晶を分散させて作られる感光性材料です。光子が結晶に当たると電子が解放され、集まった電子が銀イオンを還元して潜像核を形成します。現像液は潜像核にだけ作用して金属銀粒子を増幅するため、光が当たった部分が黒くなります。粒子が小さいほど解像度は高まりますが感度は低下し、Lippmann法ではλ/2縞を記録するため極端に小さな粒子が必要でした。銀塩乳剤は100年以上にわたって写真や映画、X線撮影の中心的媒体として活躍し、今日も特殊用途に残っています。
ブラッグ反射
ブラッグ反射は結晶格子の層間距離dと入射角θが関係する2d sinθ = mλの条件で特定波長が強く反射される現象です。元々X線結晶解析で発見されましたが、光学的にも多層膜やフォトニック結晶で同じ原理が働きます。リップマン写真では、銀とゼラチンの交互層がブラッグ面となり、垂直方向から来る白色光の中で該当波長だけを選択的に反射します。そのため観察者は元の被写体と同じ色を視認でき、視角が大きく変わると色も少しシフトします。ブラッグ反射は高反射鏡、色素レスカラーフィルター、波長選択ミラーなど現代光学素子の設計に応用されています。
反射型ホログラム
反射型ホログラムは、照明光と再生光が同じ側から入射し、ブラッグ条件で像を反射する三次元記録媒体です。デニシュークやLippmann配置のように、記録時に参照光を乳剤背面方向へ反射させることで深さ方向に干渉縞を刻みます。再生には通常の白色光が使え、選択的反射により高い色純度と立体感を得られます。Lippmannプレートは最古の反射型ホログラムとみなされ、現代のセキュリティホログラムやAR用波長コンバイナーにつながる基礎技術です。厚みを利用するため情報密度が高く、環境光下でも高コントラストの画像が観察できます。