1926年ノーベル物理学賞

受賞理由

物質の不連続的構造に関する研究、特に沈殿平衡についての発見 Ann. de Chim. et de Phys. (VIII):18 (1909) 5-114

受賞者

ジャン・ペラン
ジャン・ペラン

フランスフランス

解説

私たちが見ているコップの水や空気は、小さなつぶつぶ(分子)からできています。でも百年前は、本当に分子があるかどうかを疑う人もいました。ジャン・ペランは、水にとても小さな色つきの粒を入れて、粒が上下にどんなふうに分かれるかをルーペで観察しました。重い粒は下に沈もうとしますが、分子がぶつかる力で少し押し返されるので、上のほうにも粒が残ります。その高さごとの粒の数を数えると、分子がいることを示すきまりにぴったり合いました。こうして「ものは小さな分子でできている」ことを、目に見える形で証明したのです。

関連キーワード

沈殿平衡

微粒子が重力で沈む傾向と、熱運動による拡散で上向きに広がる傾向がつり合った状態を指す。高さによる粒子濃度は指数関数的に減少し、その減衰定数にはボルツマン定数が現れる。固体粒子でも気体分子と同じ統計力学が成り立つことを示す実験検証として重要である。ペランは濃度プロファイルを顕微鏡で直接計測し、アボガドロ定数を求める独立な方法を提供した。現在では超遠心分離やタンパク質の分子量測定にも応用される概念である。

ブラウン運動

水や空気中に浮かぶ微粒子が不規則にジグザグ運動する現象。1827年にロバート・ブラウンが発見し、1905年にアインシュタインが理論的説明を与えた。粒子の平均二乗変位は時間に比例し、その比例係数から拡散係数 D が得られる。ペランは実験でこの関係式を確認し、温度や粘度との依存性も測定した。ブラウン運動の定量化は統計力学と実験データを直接結びつけ、ナノスケールでの輸送現象理解に貢献している。

アボガドロ定数

モルあたりに含まれる粒子数(約6.022×10²³個)を示す物理定数。気体定数 R とボルツマン定数 k_B の比で定義される。19世紀には気体の拡散や電気分解から推定されていたが、ペランは沈殿平衡とブラウン運動を用いて液体系から独立に決定した。その一致は原子論の強力な証拠となり、化学量論の精度向上に寄与した。現在はシリコン球の原子数計測などでさらに高精度が追求され、キログラムの再定義にも関わっている。

コロイド粒子

直径1 nm〜1 µm程度の微粒子で、液体や気体中に分散している。光を散乱して溶液を濁らせるが、重力ではすぐには沈降しない。ペランの実験ではコロイド粒子が観察対象となり、巨視的かつ可視的なプローブとして分子レベルの統計法則を検証できた。現代では塗料、食品、医薬、電子インクなど多岐に利用され、相互作用を制御することでゲル化や自己組織化を引き起こせる。コロイド科学はソフトマター物理学の主要分野の一つである。

分子の離散性

物質が連続体ではなく、有限サイズの粒子(分子)で構成されるという概念。19世紀の熱力学は連続モデルでも成立したため、一部の科学者は原子の実在を疑っていた。ペランの濃度分布測定は、離散的なエネルギー単位 k_BT が現れる式を直接検証し、連続モデルのみでは説明できない結果を示した。これにより原子・分子が物理的実体であることがほぼ決着した。量子力学の発展も、この離散性の受容を土台としている。

光散乱法

分子や粒子に光を当てたときの散乱強度からサイズや形、相互作用を解析する実験手法。レイリー散乱やミー散乱の理論が基礎にある。ペランのコロイド研究は可視光散乱観察の走りであり、後にデバイの動的光散乱法へと発展した。タンパク質の分子量測定や高分子の鎖長推定、ナノ粒子の凝集挙動解析など、広範な応用を持つ。光学装置の改良により、サブミクロ秒の時間分解能まで達成されている。

浮力

液体中で物体が受ける上向きの力。アルキメデスの原理によれば、その大きさは排除した液体の重さに等しい。ペランの解析では粒子の実効質量 m_b=m−ρ_fluid V が沈降に関わり、浮力補正が正確な濃度プロファイル取得に必須となった。浮力概念は気球の飛行から深海探査機の設計まで広く利用される。微視的スケールでも、浮力と熱ゆらぎの競合がコロイド安定性を左右する。