1936年ノーベル物理学賞(2)
受賞理由
陽電子の発見(Phys. Rev.:43(1933) 491-498; Phys. Rev.:44(1933) 406-423)
受賞者
アメリカ合衆国
解説
電子にはプラスの仲間がいます。それが「陽電子」です。アンダーソンさんは霧で満たした箱を磁石で囲み、宇宙線が通ると反対向きに曲がる軌跡を見つけました。これが陽電子で、電子とぶつかると光になって消えてしまいます。この発見は、物質にも鏡あわせの兄弟がいることを教えてくれました。
関連キーワード
陽電子
陽電子は電子と同じ質量で正の電荷を持つレプトンである。ディラックの相対論的量子力学がその存在を理論予言した。アンダーソンは磁場中の雲霧箱で電子と逆に曲がる飛跡を観測し、陽電子を実証した。陽電子は電子との対消滅で二本の511keVガンマ線を放出し、これはPET診断装置に応用される。反物質の検証は宇宙における物質・反物質不均衡の解明に向けた研究を促進した。
雲霧箱
雲霧箱は過飽和蒸気中を荷電粒子が通過すると、水滴が凝結して飛跡が可視化される装置である。C.T.R.ウィルソンが1901年に考案し、初期粒子物理学で広く使われた。磁場をかけることで飛跡の曲率から運動量と電荷の符号が求められる。アンダーソンは宇宙線を利用し、未知の正電荷粒子を検出した。今日でも教育用デモや放射線可視化に利用され、歴史的意義を保ち続けている。
反物質
反物質は通常の物質粒子と質量は同じで電荷やバリオン数など量子数が反対符号の粒子から構成される。物質と反物質が接触するとエネルギーに変換される対消滅が起こる。ビッグバン理論は物質と反物質がほぼ等量生成されたと予測するが、現在の宇宙は物質が圧倒的に多い。この非対称性はCP対称性の破れやバリオジェネシス機構と深く関係する。陽電子の発見は反物質研究の端緒となり、反陽子や反水素の生成・捕捉へと研究が発展した。
ベータ崩壊
ベータ崩壊は原子核が電子(β–)または陽電子(β+)とニュートリノを放出して別の核種へ変わる過程である。β+崩壊は陽子が中性子に転換し陽電子を放出するため、陽電子の自然生成源となる。ウィークインタラクションを介し、宇宙元素合成や星内部のエネルギー輸送に重要な役割を果たす。β崩壊スペクトルの連続性はニュートリノの存在を示唆し、パウリが1930年に仮定した。陽電子検出技術は医療PETや放射性トレーサー研究でβ+崩壊同位体を利用する基礎になっている。
対生成
対生成は高エネルギー光子が原子核近傍で電子と陽電子のペアに変換される現象であり、エネルギー保存則から2m_ec²=1.022MeV以上が必要条件となる。Bethe–Heitler理論はその断面積を量子電磁力学(QED)で計算し、原子番号や光子エネルギーの依存性を示した。対生成は宇宙線シャワーの初期段階やガンマ線天体のスペクトル形成で重要である。アンダーソンの陽電子観測は対生成過程の存在を間接的に支持した。今日の高エネルギーガンマ線望遠鏡では対生成を利用したコンバータ・トラッカー方式が採用されている。