1946年ノーベル物理学賞

受賞理由

超高圧装置の発明と、それによる高圧物理学に関する発見

受賞者

パーシー・ブリッジマン
パーシー・ブリッジマン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

風船を手でぎゅっと押すと中の空気が小さくなろうとするように、ものに力をかけて押し縮めることを「圧力」をかけると言います。パーシー・ブリッジマンさんは、とても丈夫な金属の筒とピストンを使って、地球の深いところと同じくらい強い圧力を作り出す機械を発明しました。その機械で氷や金属、ゴムなどを押し縮めたところ、形やかたさ、色が変わることを見つけました。たとえば氷はふしぎな新しい固体に変わり、鉛はいつもより固くなりました。これらの発見は、宝石を人工的に作る技術や新しい材料を探す研究につながっています。私たちの身の回りの物がどんな条件で姿を変えるのかを知る手がかりをくれたのです。

関連キーワード

高圧物理学

高圧物理学は物質に非常に大きな圧力をかけて、その構造や性質がどのように変化するかを調べる学問分野です。圧力をパラメータとして温度や化学組成と組み合わせることで、新しい結晶相、金属化、超伝導などの現象が現れます。地球内部や他の惑星の条件を模擬する唯一の実験手段でもあり、地球科学とも密接に関わります。産業的には超硬工具、人工宝石、ペロブスカイト型酸化物開発などへ応用されています。ブリッジマンの装置とデータは、この分野を体系化した出発点とされています。

ブリッジマン装置

ブリッジマン装置はピストン・シリンダー構造を基礎とし、試料に均一な静水圧を加えられるよう設計されています。特殊なガスケットとセル素材が圧力の上昇とともに自己密封する仕組みが特徴です。20世紀前半には100kbarを超える圧力を長時間維持できた唯一の実験装置でした。装置内には加熱コイルが組み込まれ、温度制御と圧力制御を同時に行えるため、相図測定に適しています。現在のマルチアンビルやトロイダルプレスの原型となりました。

相転移

相転移は物質が固体、液体、気体など異なる状態や結晶構造へ変化する現象です。圧力は相転移の温度や起こり方を大きく変える要因で、高圧下では常温でしか見られない固相が出現することがあります。ブリッジマンは体積と抵抗率の変化から、氷や金属の相転移点を決定しました。相転移を理解することで、材料の強度や電気特性を自在に制御するヒントが得られます。地球深部の鉱物学や高機能材料設計にも重要な概念です。

圧力単位

圧力を表す単位にはパスカル(Pa)、バール(bar)、気圧(atm)、ギガパスカル(GPa)などがあります。1atmは海面上での大気圧で約1.013×10^5Paです。ブリッジマンの実験で扱う40GPaは40万atmに相当し、地球深部数百キロメートルの環境を再現します。単位換算を正確に行うことはデータの比較や装置較正に不可欠です。高圧研究では通常GPaが使われ、ダイヤモンドアンビルセルで数百GPaまで到達します。

圧縮率

圧縮率は物質が圧力に対してどれだけ体積を縮めるかを表す量で、体積弾性率の逆数です。数値が大きいほど柔らかく小さな力でつぶれやすいことを意味します。ブリッジマンは精密な体積測定から、多くの金属や結晶の圧縮率を求め、状態方程式の確立に寄与しました。圧縮率のデータは地震学における地球内部モデルの計算や、高圧材料設計の基礎パラメータとなります。非線形圧縮率の研究は現在も超硬物質や超伝導体の探索に欠かせません。

氷VII

氷VIIは水が約2GPa以上の圧力で常温でもとる立方晶の高圧相です。分子の並び方が氷Iとは全く異なり、地球深部や海洋惑星の内部で存在すると考えられています。ブリッジマンが初めて実験的に生成し、その形成圧力と体積変化を報告しました。氷VIIの存在は、ダイヤモンド包有物や衝撃クレーターの分析で確認されています。その研究は惑星内部の水循環や生命環境の推定に大きな影響を与えます。

金属化

金属化とは、絶縁体や半導体が高圧下で電子バンド構造を変えて金属のように電気を流すようになる現象です。バンドギャップが圧力で縮小し、ついには閉じることで起こります。ブリッジマンはビスマスや硫黄などで常温金属化を観測し、電子物性が可逆的に制御できることを示しました。この知見は高温超伝導体や水素金属化研究の先駆けとなりました。現在も圧力誘起金属化は高エネルギー密度物質の創製に欠かせない概念です。

ダイヤモンドアンビルセル

ダイヤモンドアンビルセル(DAC)は、二つのダイヤモンドの尖端で試料を挟んで圧力をかける装置で、現在は数百GPaまで到達できます。透明なダイヤモンドが使われるため、光学分析やX線回折がそのまま行えるのが大きな利点です。DACはブリッジマン装置の原理を小型化・高圧化したもので、1960年代に開発されました。今日では室内で惑星中心圧を再現できる唯一のツールとして広く用いられています。高圧合成、生体分子研究、レーザー加熱実験など応用は多岐にわたります。

ブリッジマンシール

ブリッジマンシールは、ピストンとシリンダーの隙間に軟質金属やテフロンなどを挿入し、圧力の上昇とともに材料が流動して隙間を塞ぐ自己密封構造です。この仕組みにより高圧状態を数時間から数日維持できるようになりました。シール材の選択と温度条件の最適化は、漏えいとガスケット破損を防ぐ鍵となります。現在も多くの静水圧プレスに改良型ブリッジマンシールが採用されています。装置性能と実験の再現性を支える重要な技術要素です。

状態方程式

状態方程式(EoS)は、物質の圧力、体積、温度の関係を数式で表したもので、理想気体の法則からMurnaghan,Eulerianモデルまで様々です。高圧下でのEoSは惑星内部の密度分布や物質設計に不可欠な入力データとなります。ブリッジマンの精密な体積測定は、高圧での実験的EoS構築にとって最初期の体系的データでした。後にバーチやダッフィーらが理論を拡張し、今では第一原理計算と併用して精度を高めています。EoS研究は材料科学、地球惑星科学、核融合エネルギー研究など広範な分野で利用されています。