1947年ノーベル物理学賞

受賞理由

上層大気の物理的研究、特にアップルトン層の発見

受賞者

エドワード・アップルトン
エドワード・アップルトン

イギリスイギリス

解説

空のずっと高いところには、電気をおびた空気の層があり、ラジオの電波を跳ね返しています。アップルトンさんは電波を空に向けて送り、その跳ね返ってくる時間を測ることで、この層の高さや性質を調べました。この層は今では「アップルトン層」と呼ばれ、夜に遠くのラジオ放送が聞こえるひみつを教えてくれます。彼の発見のおかげで、船や飛行機の通信が安全になり、宇宙の研究も進みました。今日のGPSや衛星通信の基礎にもつながっている大切な研究です。

関連キーワード

電離圏

電離圏は高度約60〜1000kmの大気層で、太陽紫外線によって空気分子が電離して電子とイオンを生じるため、電気を通しやすい特性を持つ。導電性によりラジオ波を屈折・反射し、短波通信やレーダー観測に利用される。電子密度は高度と時間で変動し、昼は太陽光で増加し夜は再結合で減少する。F2層、E層、D層など複数のサブレイヤーが存在し、それぞれ臨界周波数が異なる。電離圏の状態は宇宙天気現象と密接に結びつき、GPS誤差や送電線誘導電流の原因にもなる。

アップルトン層(F2層)

アップルトン層は電離圏F層上部に位置し、電子密度が最も高い領域である。昼間は高度約250〜400kmに形成され、短波帯の電波を最もよく反射するため、遠距離通信を支配する。夜間でも完全には消滅せず、夜間通信の生命線となることが多い。電子密度と臨界周波数 foF2 は太陽黒点数や季節に応じて変化し、長期的には太陽活動周期に従う。アップルトンの観測とモデル化により、現在の国際電離圏予報や通信プランニングが可能になった。

無線電波伝搬

無線電波伝搬は、電波が空間を進むときの経路や減衰を扱う学問で、地上波、空電波、大気屈折など多様なモードを含む。電離圏反射によるスカイウェーブは地球の曲率を越えて届くため、洋上や山岳地形を越えた通信を可能にする。アップルトンの測定は、反射点高度と周波数の関係式を明確にし、臨界周波数を超えると電波が宇宙へ抜けることを示した。これにより短波帯周波数の選定、アンテナ仰角の設計、電離層フェージング対策が体系化された。今日のITU-R勧告や軍用通信マニュアルは、この知見を土台にしている。

臨界周波数(プラズマ周波数)

臨界周波数は、その層が垂直入射の電波を反射できる最大周波数で、電子密度 N_e と深く関係する。公式 fo ≈ 9√N_e(N_e: 電子密度 [m⁻³])で与えられ、電離層の状態診断に必須のパラメータである。アップルトンは電波エコーから foF2 を実測し、日変化グラフを初めて提示した。臨界周波数を超える電波は屈折せず宇宙へ直接抜けるため、衛星通信は通常この帯域を利用する。通信エンジニアはfoの推定値から、適切な短波周波数(MU F とLU F)を算定してリンクを設計する。

イオノゾンデ

イオノゾンデは周波数を掃引する送信機と受信機からなる地上レーダーで、電離層からの反射エコーを測定して高度分布を描く装置である。アップルトンの初期装置が原型になり、現在はデジタル信号処理で数秒ごとに電離層サウンディングが可能となった。出力は電子密度プロファイルやfoF2、MUFを与え、航空・海洋通信のリアルタイム周波数管理に利用される。宇宙天気警報では、イオノゾンデネットワークのデータが磁気嵐時のHF遮断を予測する。衛星の軌道決定やGNSS測位誤差の補正モデルにも不可欠な観測装置である。

磁気圏との相互作用

電離圏は地球磁気圏と電流系で結ばれ、オーロラや磁気嵐時の電離擾乱を引き起こす。アップルトンの後継研究では、磁気赤道付近でのE×Bドリフトやローレンツ力がF2層の形状を変形させることが観測された。磁気圏から流入するエネルギーは電離圏電流を強化し、高緯度で電離層の電子密度を急変させる。これによりHF通信が途絶したり、VHF帯で散乱エコーが増大する現象が起こる。地上磁力計とイオノゾンデを組み合わせることで、電離圏—磁気圏結合過程の定量的理解が進んでいる。

マグネトアイオニック理論

マグネトアイオニック理論は電離層における電波の屈折率を、電子密度と地球磁場の両方で記述する電磁気理論で、アップルトンとハートリーによって確立された。理論はX波(異常波)とO波(普通波)の二重偏波伝搬を予測し、実際の観測でその分離が確認された。式にはジロ周波数とプラズマ周波数が組み込まれ、臨界周波数やスプリット周波数の計算が可能である。この理論により、偏波選択アンテナや方位探知装置の設計精度が向上した。今日の電離層レイトレーシングソフトやITU-Rモデルでもコア方程式として使用される。

太陽活動周期

太陽活動周期(約11年周期)は黒点数や紫外線放射の変動を特徴とし、電離圏の電子密度を大幅に変化させる。アップルトン層のfoF2もこの周期に同期した長期変動を示し、高活動期には通信可能周波数が上昇する。逆に極小期には臨界周波数が低下し、短波通信の品質が不安定になる。観測データは気象庁やNOAAのスペースウェザーセンターでリアルタイム解析され、国際通信事業者に提供される。アップルトンの長期観測があったからこそ、電離圏と太陽活動の関連性が早期に認識された。