1960年ノーベル物理学賞

受賞理由

泡箱(バブルチェンバー)の発明 Phys. Rev. 87 (1952) 665-665

受賞者

ドナルド・グレーザー
ドナルド・グレーザー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

身の回りのソーダ水に小さな泡がぷくぷく出てくる様子を想像してみましょう。グレーザーさんは、似た仕組みを使って目に見えない粒(素粒子)の通り道を泡の線として写し取る装置を考えました。これが「泡箱」です。粒が通ると、ソーダのように液体の中に泡の筋ができ、その写真を撮ると粒の動きがわかります。まるでかくれんぼをしている小さな友だちを、泡の足あとで見つけるゲームのようです。

関連キーワード

泡箱

過熱した液体を用いて、通過する荷電粒子の軌跡を泡として可視化する検出器。液体の高密度により短い飛程の粒子でも精度良く記録できる。磁場をかけると泡の線が曲がり、運動量や電荷の測定が可能。1950年代から1970年代の高エネルギー物理で主力装置となり、多くの新粒子や共鳴状態の発見を支えた。今日のシリコン検出器などの先駆け的存在である。

クラウドチェンバー

飽和水蒸気を使用して荷電粒子の通過を霧粒の線として映し出す装置。泡箱の前身であり、低密度ゆえ長い飛程の粒子を観測しやすい特徴を持つ。1920年代に宇宙線研究で活躍し、ポジトロンなどの発見に寄与した。グレーザーはクラウドチェンバーの限界を補うため、高密度媒体の泡箱を考案した。両者の比較研究は検出器物理の発展を促した。

過熱液体

沸点よりわずかに高い温度で液体を保ち、外乱がなければ沸騰しない不安定な状態。荷電粒子が通過すると局所的に沸騰が始まり泡が発生する。泡箱はこの現象を利用して粒子軌跡を可視化する。過熱度や圧力変化の制御が検出感度と空間分解能を左右する。熱力学と核生成理論が設計の鍵である。

高エネルギー加速器

粒子を光速近くまで加速し、衝突させて新しい素粒子や反応を研究する装置。泡箱はこれら加速器のビームラインで用いられ、衝突生成物の軌跡を詳細に記録した。シカゴのビバトロンやCERNのプロトンシンクロトロンなどが代表例。加速器と泡箱の組合せは標準模型の前夜に多くの実験的基盤を築いた。

素粒子物理学

物質と力の最小単位を探究する物理学の分野。泡箱は1950年代以降、クォークモデル以前のハドロン物理や弱い相互作用研究を加速させた。ニュートリノ反応の直接観測、奇妙な粒子の崩壊パターン測定などで中心的役割を果たした。後継検出器にデータ取得技術を継承し、現代の大型実験(LHCなど)へと知見が受け継がれている。