1967年ノーベル物理学賞
受賞理由
原子核反応理論への貢献、特に星の内部におけるエネルギー生成に関する発見
受賞者
アメリカ合衆国
解説
夜空で輝く太陽や星は燃える火の玉のように見えます。その明るさのもとは、星の中で起こる「核反応」という小さな粒子の合体です。ハンス・ベーテさんは、この核反応がどうやって星の光と熱を生み出すかを初めてはっきりと説明しました。彼は、星の中心で水素がくっついてヘリウムになるときに大きなエネルギーが出ることを計算しました。そのおかげで、太陽が何十億年も光り続けるしくみがわかりました。私たちが毎日あびている太陽の光は、ベーテさんの理論で解けた宇宙のふしぎなのです。
関連キーワード
ppチェーン
ppチェーンは太陽型星で主要なエネルギー源となる水素核融合反応系列です。最初の段階で二つの陽子がトンネル効果で結合し重水素を作り、次に陽子捕獲で3Heが生成されます。二つの3Heが衝突して4Heと陽子を放出することで、全体として4個の水素が1個のヘリウムに変わります。1サイクルで放出される26.7MeVが恒星の光度を支えるエネルギーとして放射されます。ベーテは各段階の断面積を計算し、太陽内部条件での反応率を初めて正確に推定しました。
CNOサイクル
CNOサイクルは炭素・窒素・酸素が触媒として働き、重めの主系列星で水素をヘリウムに変える核融合反応です。プロトンが12Cに次々と捕獲され、13N,14O,15Oなどを経てβ+崩壊しながら再び12Cへ戻る閉じた輪を形成します。サイクル全体でやはり4個の水素が1個のヘリウムになり、同量のエネルギーが放出されます。反応率は温度の約20乗に比例するため、中心温度が高い星ほど光度が急増します。ベーテはこの極端な温度依存性が質量–光度関係や高質量星の不安定性を説明すると示しました。
トンネル効果
トンネル効果は量子力学的現象で、粒子が本来越えられないエネルギー障壁を確率的に通り抜ける現象です。恒星内部では陽子同士がクーロン反発で離れようとしますが、トンネル効果のおかげで融合が可能になります。ベーテはガモフ因子を用いて透過確率を計算し、低温(数千万K)でも核融合が進む理由を説明しました。この考え方は原子核物理だけでなく、半導体トンネルダイオードやSTMなど多くの技術に応用されています。トンネル効果がなければ太陽は現在の明るさを保てず、地球上の生命環境も存在し得ませんでした。
太陽ニュートリノ
太陽ニュートリノは太陽中心での核融合過程で生成される電子ニュートリノです。反応後ほぼ光速で星から飛び出し、地球に到達すると岩石や水もほとんど透過します。1960年代の観測では理論値の3分の1しか検出されず、「太陽ニュートリノ問題」と呼ばれました。これは後にニュートリノ振動の存在を示す決定的な証拠となり、2002年のノーベル賞へつながりました。ベーテの反応率は理論値側を支え、観測と理論の差を突き止める出発点となったのです。
核天体物理学
核天体物理学は原子核反応と天体現象を結びつける学際的分野です。主な目的は星のエネルギー生成、元素合成、爆発現象を核物理データから解明することにあります。ベーテの恒星核融合理論はこの分野の草創期を築き、研究テーマを恒星内部から超新星、宇宙初期へと広げました。今日では地下加速器、γ線望遠鏡、ニュートリノ検出器など多様な実験装置が連携してデータを提供しています。理論・観測・実験が三位一体となって宇宙の化学的進化を追跡する点が、この学問の大きな魅力です。