1969年ノーベル物理学賞
受賞理由
素粒子の分類およびその相互作用に関する貢献と発見(Phys. Rev. 92 (1953) 833-834、Phys. Rev. 125 (1962) 1067-1084、Phys. Lett. 8 (1964) 214-215)
受賞者
アメリカ合衆国
解説
私たちのまわりには見えないほど小さな粒(つぶ)がたくさんあります。マレー・ゲルマンさんは、その粒を動物図鑑のようにグループ分けしました。さらに、粒の中には「クォーク」というもっと小さな部品があると考えました。これはレゴブロックで動物を作るように、いくつかのブロックを組み合わせると粒ができるというイメージです。ゲルマンさんの分け方のおかげで、科学者は粒の仲間をすっきり理解できるようになりました。粒同士がどう引き合うかも説明できるようになり、宇宙の仕組みに一歩近づきました。
関連キーワード
エイトフォールド・ウェイ
1961年にゲルマンが提案したハドロン分類法。電荷とストレンジネスを座標に取ると粒子が美しく八つに分かれ、数学的にはフレーバーSU(3)対称性のオクテット表現に対応する。対称性を少し破ると質量差が説明でき、未知粒子Ω⁻の存在を予言した。分類表は粒子物理学者の共通言語となり、実験結果の整理や新粒子探索の指針を与えた。
クォーク模型
ハドロンがより基本的なクォークで構成されるという理論。初期模型ではu,d,sの3フレーバーのみを想定し、バリオンは3クォーク、メソンはクォーク・反クォーク対として表される。模型は多重度や磁気モーメントの計算に成功し、深非弾性散乱やチャーム・ボトム等の新フレーバー発見で拡張された。後に色量子数の導入でパウリの排他原理と整合し、量子色力学の構築へ発展した。
SU(3)対称性
特殊ユニタリ群SU(3)は3×3ユニタリ行列で行列式1の集合で、エイトフォールド・ウェイの数学的骨格をなす。八つの生成子がグループの“方位”を決め、対応する保存量が粒子の性質に写像される。対称性が厳密なら粒子は同質量になるが、対称性の破れを摂動として扱うと質量分裂が説明できる。群論手法は後の標準模型で電弱SU(2)×U(1)にも応用され、対称性と粒子の関係を理解する強力な道具となった。
ストレンジネス
強い相互作用で保存されるが弱い相互作用で変化する量子数。初期の宇宙線実験で寿命の長い粒子が発見され“奇妙”に感じられたことから名付けられた。ゲルマンはストレンジネスを八道図の一軸として採用し、粒子生成・崩壊の選択則を整理した。クォーク模型ではsクォークの存在で自然に説明される。量子数の導入は未知粒子探索の指標となり、標準模型でも風変わりなフレーバー物理を研究する基盤となっている。
量子色力学
QCDはクォークとグルーオンが織りなすSU(3)_cゲージ理論で、強い相互作用の基本法則を与える。ゲルマンのクォーク概念に“色”という内部自由度を追加し、グルーオンが色荷を運ぶことでハドロンの閉じ込めと漸近的自由性を説明する。理論は高エネルギー散乱のスケーリング違反やジェット生成など多くの実験データと一致している。格子QCD数値計算によりハドロン質量や相転移温度も再現され、宇宙初期のクォークグルーオンプラズマ研究に重要な役割を果たす。
Ω⁻バリオン
sssという3本のストレンジクォークで構成され、電荷−1を持つバリオン。エイトフォールド・ウェイが質量と存在を予言し、1964年ブルックヘブン国立研究所で発見された。発見は理論の信頼性を劇的に高め、クォーク模型受容の決定打となった。現在でもハイパー核物理やストレンジ物質研究で重要な役割を担う。