1971年ノーベル物理学賞

受賞理由

ホログラフィーの発明および発展(Nature 161 (1948) 777–779, Proc. Roy. Soc. A 197 (1949) 454, Proc. Phys. Soc. B 64 (1951) 449)

受賞者

ガーボル・デーネシュ
ガーボル・デーネシュ

イギリスイギリス

解説

写真は平らな紙に写りますが、ホログラムは角度を変えると奥行きがある立体の像が見えます。まるでカードの中に小さな模型が入っているような不思議なシールです。ガーボル博士はレーザーの光を重ね合わせ、物の姿だけでなく光の揺れ方までフィルムに書き込む方法を考えました。そのフィルムに同じレーザーを当てると、空中に本物そっくりの光の像が現れます。遊園地の立体ポスターやお札のキラキラ模様も、この技術を応用しています。

関連キーワード

ホログラフィー

光の干渉と回折を利用して物体の三次元情報(振幅と位相)を1枚の媒体に記録し、後から同じ参照光で照射することで元の光波を再生する技術。写真と異なり奥行きや焦点面を自在に変えられるため、立体映像や精密計測に適している。可視光のみならずX線や電子波にも応用され、材料科学や生物学でナノスケールの解析を可能にした。近年は計算機ホログラフィーが普及し、CGと組み合わせたAR/VR表示装置の核心技術となっている。量子情報分野でもエンタングルド光の位相操作に応用が期待される。

レーザー

光を一つの色と方向にそろえ、大きなコヒーレンス長を持つ光源。ホログラフィーでは物体波と参照波を安定に干渉させるために不可欠であり、1960年の発明以降にホログラムの解像度と再生品質が飛躍的に向上した。レーザー波長を変えることで赤外・紫外・テラヘルツ領域のホログラフィーが実現し、多波長干渉計測や温度場可視化にも利用される。高出力レーザーはホログラフィック光加工や慣性核融合用光学素子製作を支える。フェムト秒レーザーと高速カメラの組み合わせは動的ホログラフィーへ道を開いた。

干渉

二つ以上の光波が重なったとき、山と山が出会うと明るく、山と谷が出会うと暗くなる現象。ホログラムは物体波と参照波の干渉縞を記録し、縞の濃淡が位相差を符号化する。干渉の周期は波長オーダーであるため、記録媒体の解像度が性能を決定する。マイクロ干渉計や光ファイバセンシングでも同じ原理が使われ、温度やひずみをピコメートル精度で測定可能。量子力学では確率振幅の干渉が量子ホログラフィーの基礎となる。

回折

光が小さな開口や障害物の周りで曲がる現象。ホログラムの再生は、記録された干渉縞を回折格子として利用し、特定の角度に+1、0、−1次のビームを生成することで行われる。フーリエ回折理論を用いると、ホログラム面の複素透過関数が遠方場で物体像を再構築する仕組みが理解できる。X線回折では結晶構造解析に、電子回折では半導体デバイスの欠陥検出に応用される。回折制限を超える超解像技術もホログラフィック光制御と組み合わせて研究が進む。

位相情報

光の波は“山”と“谷”の位置を示す位相で完全に記述されるが、普通の写真や人間の目は明るさ(振幅)しか認識できない。ホログラフィーは干渉を利用して位相を可視化し、媒体に保持するため、再生時に奥行きが復元される。位相計測はレンズ収差補正、透明試料観察、生体組織の屈折率マッピングに不可欠。電子線や中性子線でも同様の位相コントラスト法が開発され、材料内部の電磁場をイメージングできる。量子計算では位相が情報キャリアとなるため、高精度な位相制御技術は将来の量子オプティクスに直結する。

コヒーレント光

位相が時間と空間でそろっている光。干渉縞が安定して得られる条件であり、理想的には単一周波数・単一モードのレーザーが用いられる。ガーボルはレーザー以前に水銀ランプを空間フィルタで選別して疑似コヒーレント光を得た。現在は光周波数コムが超高コヒーレンス光源として使われ、絶対距離計や時刻同期に寄与している。半導体レーザーの直接変調により高フレームレートの動的ホログラム投影が可能となった。

記録媒体

ホログラムを固定化する材料。銀塩写真乾板、光学ガラス、フォトポリマー、位相変化メモリなど多様な選択肢がある。媒体の解像度・感度・散乱損失が立体像の品質を左右し、サブミクロンの粒状度が望まれる。フォトレジストを用いた回折光学素子製造では、ホログラムとリソグラフィーが融合しマイクロ光学系が大量生産可能となった。近年の多層ブルーレイディスク技術はホログラフィック多重記録の成果を取り入れている。

再生波

ホログラムを照射して元の光波を呼び出すための参照光。照射角度や波長が記録時とずれると像が歪んだり色ずれを起こすため、高い安定性が要求される。再生波を変調すれば倍率付ホログラムや仮想画像の生成が可能で、HUDや立体ディスプレイ応用につながる。超短パルス再生波を用いると、時間分解ホログラフィーで数ピコ秒の過程を可視化できる。自由電子レーザーによるX線再生波では原子配列の動的観察が期待されている。

三次元イメージング

物体の奥行き・形状を立体的に記録・表示する技術の総称。ホログラフィーはメガネ不要で見る者の位置に応じた視差を与える唯一の完全3D方式とされる。医療ではホログラムCT再構成が外科ナビゲーションを支援し、文化財保存では立体データを非接触でアーカイブできる。自動運転用LiDARや顔認証にも3Dセンシングが不可欠で、ホログラフィック手法が高解像度・高速化に寄与している。将来のテレプレゼンスやホロポーテーションはリアルタイム3Dイメージングの延長線上にある。

デジタルホログラフィー

CCD/CMOSで干渉縞を撮影し、数値計算で波面を再生する近年の手法。撮影後に焦点深度や観察角度を自在に変更できるため、1枚で多視点情報を持つ。GPU並列計算と高速フーリエ変換により、リアルタイム3D映像配信や生体顕微観察が可能になった。機械学習を組み合わせたノイズ低減・超解像アルゴリズムが研究され、微小粒子追跡や流体計測の精度が向上。光通信ではデジタルホログラムを用いた空間多重化が研究され、通信容量の飛躍が期待される。