1983年ノーベル物理学賞(1)

受賞理由

星の構造および進化にとって重要な物理的過程に関する理論的研究(Philos. Mag. 11(1931) 592、Astrophys. J. 74(1931) 81、Astrophys. J. 96(1942) 161)

受賞者

スブラマニアン・チャンドラセカール
スブラマニアン・チャンドラセカール

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

宇宙の星は生まれてから最後まで形を変えながら生きています。チャンドラセカールさんは、星が年を取って小さくなったときにどのくらい重いとつぶれてしまうのかを計算しました。その限界は「チャンドラセカール限界」と呼ばれ、およそ太陽の1.4倍の重さです。もし星がそれより軽ければ白くて小さな「白色矮星」として静かに残ります。しかしもっと重いと、さらにぎゅっとつぶれて中性子星やブラックホールになります。こうした研究は夜空の星がどんな未来をたどるかを教えてくれる大切な地図になっています。

関連キーワード

白色矮星

白色矮星は太陽のような中程度の質量を持つ星が燃料を使い果たした後に残る高密度の天体です。体積は地球ほどしかないのに質量は太陽に近く、1立方センチメートルあたり数トンもの密度を持ちます。内部では電子の量子縮退圧が重力とつり合い、核融合は起こっていません。そのため光は熱の余熱によって放射され、時間とともに冷えて暗くなります。チャンドラセカールの理論はこの天体の質量と半径の関係を正確に説明しました。

チャンドラセカール限界

チャンドラセカール限界は白色矮星が持ちこたえられる最大質量で、およそ1.4太陽質量に等しいと計算されました。限界を超えると電子縮退圧だけでは重力崩壊を止められず、星は中性子星またはブラックホールへと変貌します。この数値はIa型超新星が発生する条件の基準となり、宇宙の距離測定にも利用されています。理論導出には相対論的効果とフェルミ統計が不可欠で、当時は革新的な組み合わせでした。観測による検証も進み、質量が限界に近い白色矮星が多数発見されています。

量子縮退圧

量子縮退圧はパウリの排他原理に由来し、フェルミ粒子が同じ量子状態を占められないことから生じる圧力です。温度が低くても粒子が高い運動エネルギーを持つため、通常の熱圧力とは異なります。白色矮星では電子が、また中性子星では中性子が主な担い手となります。この圧力が重力と競い合うことで、星は小さな体積に高密度で存在できます。チャンドラセカールの方程式は、その圧力を相対論的範囲まで拡張しました。

放射圧

放射圧は光子が物質に衝突することで及ぼす圧力で、高温高輝度の星では重力と同程度の影響を持ちます。恒星構造方程式に組み込むことで、星内部のエネルギーバランスを正確に記述できます。白色矮星のようなコンパクト天体では通常は小さな補正ですが、限界質量付近では無視できません。チャンドラセカールは放射圧項を取り入れ質量‐半径関係の精度を上げました。現在も大質量星や超新星シミュレーションで不可欠な要素です。

星進化

星進化は星が形成されてから燃料を使い果たして残骸になるまでの一連の過程を指します。質量によって道筋が大きく異なり、軽い星は白色矮星、重い星は中性子星やブラックホールになります。核融合で元素を作り出し、超新星爆発で宇宙に撒き散らすことで化学組成を変化させます。チャンドラセカールの限界質量は分岐点を定め、理論に定量的尺度を与えました。これによりH-R図の解釈や銀河の化学進化モデルが精緻化されました。

中性子星

中性子星はチャンドラセカール限界を超える質量が重力崩壊した結果として誕生する超高密度天体です。直径は20キロメートル程度しかありませんが、太陽よりも重い質量を持ちます。内部は中性子の縮退圧で支えられ、超流動や超伝導が理論的に予測されています。強磁場と高速自転によりパルサーとして電波を放射する例も多く観測されています。チャンドラセカールの研究はこの天体の存在を初めて理論的に示唆しました。

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