1983年ノーベル物理学賞(2)

受賞理由

宇宙における化学元素の生成にとって重要な原子核反応に関する理論的および実験的研究(Rev. Mod. Phys. 29(1957) 547-650)

受賞者

ウィリアム・ファウラー
ウィリアム・ファウラー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの体や地球を作る鉄や酸素は、もともと星の中でつくられました。ファウラーさんは、星の中でどんな『原子のくみたて遊び』が起きているのかを調べました。彼は実験室で原子核をぶつけ合わせ、星の中と同じ条件をつくってみたのです。その結果、軽い水素が集まって重い元素になる道すじをつきとめました。この研究のおかげで、宇宙がどのようにして私たちの材料を作ったかがわかるようになりました。

関連キーワード

星内核合成

星内核合成は星の内部で起こる核融合反応の総称で、水素から鉄までの元素を段階的に作り出します。高温高圧下で原子核が衝突し、新しい核種が形成される過程です。反応の種類と速度は温度、密度、組成に大きく依存します。ファウラーは実験測定で得た断面積を使い、各反応の寄与度を定量化しました。これにより星進化モデルが元素組成とエネルギー生成を同時に再現できるようになりました。

B2FH論文

B2FH論文は1957年にRev. Mod. Phys.に掲載された総説で、著者はBurbidge, Burbidge, Fowler, Hoyleの頭文字を取っています。論文は元素合成を水素燃焼から超新星爆発に至るまで体系的に分類しました。特にs過程、r過程、p過程という重元素生成メカニズムが初めて明確に定義されました。観測的同位体分布と理論モデルを比較する手法を確立し、以後の研究の標準引用元となっています。宇宙化学の「ロードマップ」と呼ばれるほど影響力が大きい業績です。

s過程

s過程(遅い中性子捕獲過程)はAGB星など比較的低エネルギー環境で起こり、中性子をゆっくりと吸収して重元素を合成します。一度に1個ずつ中性子を取り込むため、β崩壊で安定核に戻りながら周期表を右下へ進みます。このため生成される同位体パターンには「sピーク」と呼ばれる特徴が現れます。ファウラーは反応率測定から中性子密度と時間スケールを推定し、観測データと一致させました。今日のAGB星風モデルは彼のパラメータを基礎に改良されています。

r過程

r過程(速い中性子捕獲過程)は超新星や中性子星合体など極端な環境で発生し、短時間で大量の中性子を吸収します。核は安定域から大きく外れ、後のβ崩壊チェーンで安定核へ落ち着きます。この過程で金・プラチナ・ウランなど最重元素が作られます。ファウラーの体系化によって初めてその重要性が認識され、観測分光でr過程元素が検出されるきっかけとなりました。近年の重力波観測はr過程の主要現場が中性子星合体であることを裏付けつつあります。

核反応率

核反応率は単位体積・単位時間あたりに起こる反応数を表し、プラズマ温度と断面積から計算されます。天体物理ではMaxwell-Boltzmann分布を畳み込み、Astrophysical S-factorで低エネルギー遮蔽効果を補正します。ファウラーは多数の反応についてS-factorを直接測定または外挿し、標準テーブルを作成しました。これにより星内部のエネルギー生成量やニュートリノフラックスの予測精度が飛躍的に向上しました。現在使われているREACLIBライブラリはファウラーのデータを起点に更新されています。

ビッグバン元素合成

ビッグバン元素合成は宇宙誕生直後3分間で起こった核融合反応で、主に水素・ヘリウム・微量のリチウムが作られました。ファウラーは星内核合成との区別を明確にし、観測元素比から宇宙初期バリオン密度を推定できることを示唆しました。特に³Heと⁷Liの過不足問題は彼のデータセットを検証ベンチマークにしています。この枠組みは宇宙マイクロ波背景放射の精密測定と連携し、標準宇宙論モデルの確立に貢献しました。今日も軽元素観測は新物理の手がかり探索に使われています。

同年の他の受賞業績