1986年ノーベル物理学賞(1)
受賞理由
電子を用いた光学に関する基礎研究、特に最初の電子顕微鏡の設計
受賞者
西ドイツ
解説
目では小さなものを見るために光を使いますが、光でも見えないほど小さな世界があります。ルスカさんは、光の代わりに電子というもっと短い波を持つ粒を使えば細かいものまで見えると考えました。彼は磁石をレンズのようにして電子の進む向きを曲げ、像を拡大する電子顕微鏡を作りました。このおかげで細菌より小さなウイルスや細胞の中の部品まで見ることができます。今では科学や医療で当たり前に使われる、とても大切な道具になりました。それが彼がノーベル賞を受けた理由です。
関連キーワード
電子光学
電子光学は電子の波としての性質を利用し、電磁場でビームを曲げたり集束したりして像を作る学問です。光学理論と対応しますが、電子は荷電粒子なので磁場レンズや電場レンズが主役になります。加速電圧を高くすると電子のデ・ブロイ波長が極端に短くなり、回折限界も小さくなります。球面収差や色収差は大きな課題で、多極レンズや補正器で改善が図られます。材料科学や生命科学など幅広い分野を支える重要技術です。
電子顕微鏡
電子顕微鏡は電子の短い波長を利用して光学顕微鏡を超える分解能を得る装置です。透過型や走査型など複数方式があり、目的に応じて使い分けられます。試料は高真空下に置かれ、超薄片化や導電被覆など特別な前処理が必要です。ウイルス構造解析から半導体故障診断まで広く活躍しています。収差補正やエネルギーフィルタにより原子像と化学状態を同時に取得できる時代になりました。
デ・ブロイ波長
デ・ブロイ波長は粒子に伴う波の長さで、運動量が大きいほど短くなります。電子を加速すると波長はピコメートル領域になり、電子顕微鏡の高分解能の鍵となります。波長が短いほど回折による像のぼやけが小さく、原子間距離まで観察可能です。この概念は電子線回折や中性子回折など量子ビーム技術の基礎でもあります。量子力学と計測技術をつなぐ重要な指標です。
電磁レンズ
電磁レンズはコイルや電極で作る磁場・電場で電子の進路を曲げ、光学レンズに相当する機能を果たします。軸対称磁場によるローレンツ力で電子をらせん状に集束させます。レンズ強度や開口径は収差を左右し、多極レンズ配置で球面収差補正が行われます。この概念は電子顕微鏡だけでなく加速器や質量分析計でも用いられます。高精度ビーム制御の核心部品です。
透過型電子顕微鏡(TEM)
TEMは薄い試料に電子ビームを透過させ、投影像と回折像を同時に取得できる方式です。位相コントラストで軽元素を含む生体高分子も可視化できます。エネルギーフィルタを使えば元素分布や価数マッピングも可能です。クライオTEMと収差補正の組合せで単粒子解析が原子分解能に到達しました。材料の界面や転位観察にも欠かせません。
分解能
分解能は顕微鏡が二つの近接した点を区別できる最小距離を示す尺度です。光学顕微鏡では波長と開口数で制限され約200ナノメートルが限界です。電子顕微鏡は波長が非常に短いため理論上は原子サイズまで分解可能です。実際の分解能は収差や振動など工学的要因で制限されます。これらを克服する技術開発が先端顕微鏡の鍵となります。