1986年ノーベル物理学賞(2)

受賞理由

走査型トンネル電子顕微鏡の設計

受賞者

ゲルト・ビーニッヒ
ゲルト・ビーニッヒ

西ドイツ西ドイツ

ハインリッヒ・ローラー
ハインリッヒ・ローラー

スイススイス

解説

ビーニッヒさんとローラーさんは、とても小さな針先を試料の表面にぐっと近づける方法を考えました。針と表面の間がほんのわずかになると、電子が壁をすり抜けるようにジャンプして弱い電流が流れます。彼らはこの電流が針と表面の距離で変わることを利用し、針を動かしながら電流が一定になるように高さを調整しました。こうして得られる動きの記録は、表面の凹凸を原子が一つ一つ見分けられるほど細かく描きます。この装置は走査型トンネル顕微鏡と呼ばれます。原子の世界を見るまったく新しい窓になりました。

関連キーワード

走査型トンネル顕微鏡

STMは導電性探針を試料表面に数オングストロームまで近づけ、量子トンネル電流を測って原子レベルの地形図を描く装置です。探針を2次元に走査しながら電流を一定に保つと高さ情報が得られます。真空や低温環境では単一原子の位置まで分解できます。バイアス電圧を変化させればLDOSを測定する分光(STS)も可能です。表面科学やナノ材料研究の核心的手段となっています。

量子トンネル効果

量子トンネル効果は粒子が古典的には越えられないエネルギー障壁を波動関数の漏れによって透過する現象です。STMでは探針と試料の間の真空障壁を電子がトンネルして電流が生じます。電流は距離に指数関数的に依存し、1オングストロームで10倍以上変化します。鋭い依存性が原子分解能を実現する鍵となります。トンネル効果はトンネルダイオードや核融合理論でも重要です。

圧電素子

圧電素子は電圧をかけると微小変形する結晶で、STMでは探針位置制御に使われます。サブナノメートルステップで伸縮できるため原子走査が可能です。機械ストレスで電荷を生むためセンサーとしても機能します。温度ドリフトやヒステリシスがあるため高精度制御にはキャリブレーションが不可欠です。MEMSや超音波モータなど多くの応用があります。

原子分解能

原子分解能とは個々の原子位置を識別できる観察能力を指します。STMはトンネル電流の強い距離依存性によりこの領域に到達しました。実現には探針先端が単一原子で終わることと振動・ドリフトの抑制が必要です。原子分解能により結晶欠陥の直接観察や単原子操作が可能になります。基礎研究とナノ加工双方を変革しました。

フィードバック制御

STMのフィードバックループはトンネル電流を目標値に保ちながら探針高さを連続調整します。PID制御が一般的で、ゲイン設定は分解能と走査速度のバランスを決めます。速過ぎると発振し、遅過ぎると像がぼやけます。適切なチューニングは高品位データ取得に不可欠です。高速エレクトロニクスによりマイクロ秒応答も実現しています。

局所状態密度

局所状態密度は特定エネルギーで電子状態が空間的にどれだけ存在するかを示します。STMではdI/dVがLDOSに比例し、原子スケールで電子構造を測定できます。バンドギャップや表面準位、磁性インギャップ状態の解析に不可欠です。超伝導体ではコヒーレンスピークや準粒子干渉も可視化されます。LDOSはナノエレクトロニクスやトポロジカル物質研究の核心指標です。

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