1996年ノーベル物理学賞

受賞理由

ヘリウム3の超流動の発見(Phys. Rev. Lett. 28, 885–888 (1972); Phys. Rev. Lett. 29, 920–923 (1972); Phys. Rev. A 8, 1633–1637 (1973))

受賞者

デビッド・リー
デビッド・リー

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ダグラス・D・オシェロフ
ダグラス・D・オシェロフ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

ロバート・リチャードソン
ロバート・リチャードソン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

ヘリウムというガスをとても冷やすと液体になります。さらにマイナス270℃くらいまで冷やすと、液体のヘリウムの中でも「ヘリウム3」という特別な種類が、びっくりするふしぎな動きをはじめます。コップの中でくるくる回っても止まらず、細いすき間をすり抜けてこぼれてしまうのです。これは「超流動」とよばれ、液体がまるで摩擦ゼロで流れる状態です。リーさん、オシェロフさん、リチャードソンさんは大学の地下室でこの現象を見つけました。彼らは耳をすますように実験装置のわずかな変化を観察し、新しい世界を発見したのです。この研究は、物質がとても冷たいときに現れる量子の不思議さを教えてくれます。

関連キーワード

超流動

超流動とは、液体が粘性を完全に失い、摩擦なしで流れる量子現象です。液体は容器の壁をはい上がったり、同じ場所で永遠に渦を巻き続けたりします。これは低温で粒子の波動性が重なり、巨視的な量子状態が形成されるために起こります。ヘリウム4の超流動はボーズ統計に起因しますが、ヘリウム3の超流動はフェルミ粒子がクーパー対を組むという別のメカニズムを示します。この概念は超伝導や中性子星内部の流体など、多様な研究分野で重要な役割を果たします。

ヘリウム3

ヘリウム3は陽子2個と中性子1個から成る、質量数3の希少な同位体です。宇宙では太陽風やビッグバン元素合成で作られ、地球では天然ガス中にごく微量含まれます。原子核が奇数質量数のため、液体状態ではフェルミ統計に従い、通常はフェルミ液体として振る舞います。極低温でクーパー対を形成すると、ヘリウム3は超流動になり、独特のスピン三重項p波相を示します。核融合燃料や量子シミュレータ材料としても注目されています。

フェルミ液体

フェルミ液体は、相互作用するフェルミ粒子系が基底状態付近で擬粒子と呼ばれる長寿命励起を持ち、金属伝導や液体ヘリウム3を記述する理論枠組みです。ランドーはエネルギー、運動量、スピンなどの量が滑らかに変化する連続関数として体系化しました。比熱が温度に線形比例する、磁化率がほぼ一定であるなどの特性を予言し実験と一致します。ヘリウム3が超流動になる前の通常相は典型的なフェルミ液体で、その性質の精密測定は理論の検証に使われました。高温超伝導や強相関電子系ではフェルミ液体破れが議論され、物性物理の中心テーマとなっています。

クーパー対

クーパー対は二つのフェルミ粒子が引力を受けて結合し、全体としてボース粒子の統計を持つ複合体です。金属中の電子は格子振動(フォノン)を介して弱い有効引力を受け、温度を下げると対を作ります。対が重なり合って一つの量子状態に凝縮すると超伝導が生じ、抵抗がゼロになります。ヘリウム3の原子は核スピンが1/2であり、互いにスピン三重項p波のクーパー対を形成して超流動になります。クーパー対の概念は量子統計と凝縮現象の橋渡しとして、超伝導・超流動双方で中心的役割を果たします。

量子渦

超流動体や超伝導体では、渦の循環量がプランク定数に比例して離散値しかとれず、これを量子渦といいます。流体が無粘性でも回転する場合、流れは連続した渦輪でなく、細い線状の渦糸として存在します。ヘリウム3の量子渦はスピンと軌道が結びついた複雑な内部構造を持ち、コアではフェルミ準粒子が局在します。量子渦の観測と操作は、超流動の内部対称性やトポロジーを調べる有力な手段となります。近年は量子乱流やトポロジカル量子計算にも応用が模索されています。