2010年ノーベル物理学賞

受賞理由

二次元物質グラフェンに関する革新的実験

受賞者

アンドレ・ガイム
アンドレ・ガイム

オランダオランダ

コンスタンチン・ノボセロフ
コンスタンチン・ノボセロフ

ロシア連邦ロシア連邦, イギリスイギリス

解説

鉛筆の芯に使われる黒い炭をセロハンテープで何度もはがすと、原子が一列だけ並んだとても薄いシートが残ることがあります。それがグラフェンです。グラフェンは紙より薄いのに鉄より強く、電気もスイスイ通します。ガイムさんとノボセロフさんは、このシートを簡単に取り出し、そのすごい性質を確かめました。この発見は、曲がるテレビや速いコンピューターなど、未来の道具づくりに役立つと期待されています。

関連キーワード

グラフェン

炭素原子が平面上でsp2結合し、六角形格子を形成する一原子厚の二次元結晶。金属と半導体の性質を併せ持ち、キャリアは質量ゼロのディラックフェルミオンとして振る舞う。室温での高移動度、優れた機械強度、熱伝導率、光透過性を同時に備える稀有な材料である。メカニカルエキスフォリエーションやCVDにより合成可能で、RF素子から複合材料まで幅広い応用が検討されている。二次元材料科学の出発点として位置づけられる。

二次元材料

層状結晶の一原子または数原子層を剥離して得られる物質群。グラフェンの発見以降、MoS₂、h-BN、WSe₂など多様な化合物が研究対象となった。層間はファンデルワールス力で結合されているため、面内と面外で物性が大きく異なる。バンドギャップ、スピン軌道相互作用、強相関効果などを層数やひねり角で精密に制御できるのが特徴である。次世代エレクトロニクスや量子デバイスのプラットフォームとして注目される。

ディラックコーン

グラフェンのバンド構造では、K点周辺で価電子帯と伝導帯が線形に交差し、円錐状の分散関係を形成する。このエネルギー-運動量図形は質量ゼロのディラック方程式と同型で、キャリアが光速の1/300程度で移動する理由を与える。ディラックコーンの存在は整数量子ホール効果の異常半整数シフトやベリー位相πとして観測される。類似の分散はトポロジカル絶縁体表面やWeyl半金属でも報告されている。バンドギャップ開口やフラットバンド生成を通じて新奇相を探る研究が活発である。

キャリア移動度

電場1 V/cmを加えたとき、キャリアが1 cm/sで移動する能力をcm²/Vsで表す指標。グラフェンは室温で数万cm²/Vsに達し、シリコン(約1400 cm²/Vs)を大きく上回る。高移動度は散乱の少なさと質量ゼロディラック分散に起因し、高速・低消費電力デバイス設計に有利となる。基板からの静電ポテンシャルやフォノン散乱を抑えることでさらに向上可能。超高移動度試料ではバリスティック輸送やコヒーレント量子干渉が室温でも観測できる。

バリスティック輸送

キャリアが散乱を受けずにチャネル端から端まで移動する現象。グラフェンの平均自由行程は室温で数百ナノメートルに及び、ナノスケールデバイス内でバリスティック条件を実現できる。バリスティック伝導では電流が量子化コンダクタンスe²/h単位で変化し、熱雑音も抑制されるため、高速・低雑音素子が期待される。キャビティ干渉や電子レンズ効果などユニークな量子現象の観測プラットフォームでもある。h-BN封止やサスペンデッド構造により更に自由行程を伸ばせる。

ファンデルワールスヘテロ構造

異なる二次元材料を面内結合を切らずに積み重ね、層間をファンデルワールス力で保持した多層構造。界面に格子不整合がないため、高品質な量子井戸や超格子を室温成長で作製できる。電荷移動、モワレポテンシャル、トンネル結合などを精密に設計でき、強相関絶縁体やフラットバンド超伝導が報告されている。グラフェンは電極や能動層として頻繁に用いられ、光電子デバイスやスピントロニクス素子への応用が進む。集積化により三次元半導体を凌駕する新機能材料系を開拓できると期待される。