2018年ノーベル物理学賞(1)

受賞理由

光ピンセットの開発と生体システムへの応用

受賞者

アーサー・アシュキン
アーサー・アシュキン

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

レーザーの光はとてもまっすぐ進む強い光です。アーサー・アシュキンさんは、その光を「光の指」のように使って小さな粒をつかむことに成功しました。この仕組みは「光ピンセット」と呼ばれ、目に見えないほど小さなウイルスや細胞を傷つけずに持ち上げられます。まるでピンセットで砂粒をつまむように、光だけで物を動かせるので不思議です。この道具のおかげで、細胞の中でたんぱく質が動く様子などを安全に観察できるようになりました。

関連キーワード

光ピンセット

集光レーザーによる強度勾配力で微小粒子を三次元的に捕捉する装置。非接触で操作できるため生体試料を傷つけない。単一分子の力学測定や細胞内部の構造解析に広く応用される。複数ビーム化やホログラフィック制御により大量並列操作が可能。量子物理から医療診断まで多分野に波及効果を持つ基盤技術である。

放射圧

電磁波が物体に運動量を与えることで生じる力。太陽帆やレーザー冷却の基礎原理でもある。光ピンセットでは横方向の勾配力とともに軸方向の散乱力として働く。強度が高いほど力は大きくなるが、熱的副作用も増大する。精密な力制御には波長選択やパルス制御が重要である。

強度勾配力

レーザービームの空間的な明暗の差によって生じる力で、粒子を高強度領域へ引き寄せる。誘起双極子モーメントと電場勾配の相互作用で定式化される。勾配が急なほどポテンシャル井戸が深くなり、捕捉安定性が向上する。高NAレンズやメタサーフェスで勾配を最大化できる。ナノ粒子や原子の精密配置に必須の要素である。

ホログラフィックトラップ

空間光変調器で位相パターンを生成し、1本のレーザーから多数の光ピンセットを同時に作り出す技術。マイクロ流体チップ内で細胞を高速仕分けできる。多点同時観察により統計的に信頼性の高いデータが得られる。二光子ポリメリゼーションと組み合わせて3Dマイクロ構造を直接プリント可能。近年は機械学習を用いて位相最適化をリアルタイムで行う研究も進む。

単一分子力分光

タンパク質やDNAなど1分子が示す力学応答をピコニュートン精度で測定する手法。光ピンセットやAFMを用いて荷重–伸長曲線を取得する。フォールディングの遷移状態やエネルギーランドスケープを直接可視化できる。薬剤が分子機能に及ぼす影響を定量評価する研究も盛ん。創薬やナノマシン設計の設計指針を提供する。

ブラウン運動解析

捕捉された粒子の微小な熱揺らぎを時系列で記録し、パワースペクトルや自己相関を解析してトラップばね定数や周囲粘性を求める。サブナノメートル精度で変位を追跡できる。温度や粘度の局所計測にも応用可能。トラップポテンシャルが非調和的な場合は高次モーメント解析が必要となる。物理定数の校正手法として広く用いられている。

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