2020年ノーベル物理学賞(2)

受賞理由

我々の銀河系の中心にある超大質量コンパクト天体の発見

受賞者

ラインハルト・ゲンツェル
ラインハルト・ゲンツェル

ドイツドイツ

アンドレア・ゲズ
アンドレア・ゲズ

アメリカ合衆国アメリカ合衆国

解説

私たちの銀河の真ん中には、とても重い見えない天体があります。ラインハルト・ゲンツェルさんとアンドレア・ゲズさんは、星の動きを詳しく調べ、この天体がブラックホールだと考えました。星が風車のまわりを小石がぐるぐる回るように高速で中心を回っていることを見つけたのです。観測には赤外線望遠鏡という、ほこりの向こう側も見える特殊な望遠鏡が使われました。研究の結果、中心には太陽の約400万倍も重いものが小さな場所に隠れているとわかりました。今ではその場所は「いて座A*」と呼ばれています。

関連キーワード

超大質量コンパクト天体

超大質量コンパクト天体は、太陽の百万倍以上の質量が太陽系ほどの体積に収まる見えない天体を指します。現在最も有力な実体は超大質量ブラックホールです。銀河の進化や星形成、ガス流入を制御するフィードバック源として注目されています。強い重力は周囲の星やガスの運動、さらには相対論的ジェットの発生を支配します。ゲンツェルとゲズの観測は、この天体が天の川中心に存在することを動力学的に立証しました。

銀河系中心

銀河系中心は、いて座の方向に位置する高密度領域で、星やガス、ダストが集中しています。強い電波源いて座A*があり、多波長で激しい活動が観測されます。視線方向に厚いダスト層があるため、赤外線や電波観測が必須です。中心の重力ポテンシャルは周囲の棒構造やスパイラル構造の運動にも影響します。超大質量ブラックホールの質量測定は、銀河系の質量分布とダークマター研究にも対比的制約を与えます。

適応光学

適応光学は、大気の揺らぎで歪む星像を高速可変ミラーで補正する技術です。補正により地上望遠鏡でも宇宙望遠鏡並みの分解能が得られます。レーザーガイド星を用いれば任意の空に基準光源を作り出せます。銀河中心のように見掛けの明るさが変動する対象でも、安定した点像関数が保てます。ゲンツェルとゲズの精密測位は、この技術なくしては実現しませんでした。

赤外線天文学

赤外線天文学は、可視光より長い波長を観測して、ダストに隠れた天体を探る分野です。波長が長いため宇宙の塵による吸収が小さく、銀河中心のような濃いダスト領域でも内部を透視できます。赤外線スペクトルからは星の温度や速度情報も得られます。地上観測では水蒸気による吸収があるため、高地や乾燥地に望遠鏡が設置されます。ゲンツェルとゲズの研究では、近赤外線バンドの撮像と分光が中心的役割を果たしました。

ケプラー運動

ケプラー運動は、中心質量に支配された天体の楕円軌道運動を表す古典力学モデルです。軌道周期と半長軸から中心質量を直接算出できます。中心質量が集中している場合のみ、単純な逆二乗則が成立します。軌道が歪んでいたり速度が高すぎる場合は、追加の質量分布や相対論効果を考慮する必要があります。銀河中心星のケプラー運動が、超大質量ブラックホールの存在証拠となりました。

いて座A*

いて座A*は、銀河系中心に位置する強い電波源で、超大質量ブラックホールの座標と一致します。電波・赤外線・X線で時間変動フレアが観測され、周囲のガス降着を示唆しています。VLBI観測では、数十マイクロ秒角の構造が明らかになり、ブラックホールの影を直接撮像する計画が進行中です。質量約400万太陽質量という数値は、恒星軌道とサブミリ波VLBIの両方から独立に支持されています。Sgr A* の研究は、ブラックホール物理を太陽系スケールで検証できる希少な実験室を提供します。

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