1961年ノーベル物理学賞(1)
受賞理由
原子核内での電子線散乱とそれによる核子の構造の発見(Phys. Rev. Lett. 5 (1960) 263–265; Phys. Rev. Lett. 6 (1961) 293–296)
受賞者
アメリカ合衆国
解説
私たちの身の回りのものはすべて原子というとても小さな粒からできています。原子の中心にはさらに小さな原子核があり、その中に陽子と中性子という粒(核子)が詰まっています。ホフスタッターさんは電子を光より速く近いスピードまで加速し、原子核に向けて打ち込みました。跳ね返った電子の向きや速さを測ることで、原子核の形や大きさを推理しました。暗い部屋でボールを壁に投げて壁の形を想像する実験に似ています。こうして彼は核子がどれくらいの大きさで電気がどう分かれているかを世界で初めてはっきり示しました。
関連キーワード
電子散乱
電子散乱は高速電子を物質に衝突させ、飛んでくる角度やエネルギーを測定して内部構造を調べる手法です。電子は点粒子的で理論計算が容易なため高い解析精度が得られます。ホフスタッターの実験では角度分布が核子フォームファクター決定の鍵となりました。現在は加速器物理や材料科学にも応用され、原子レベルの像を提供します。不可視だった核子の大きさと電荷分布を定量化した功績は大きいです。
核子
核子は陽子と中性子の総称で原子核を構成する基本粒子です。強い相互作用を受け、内部にはクォークとグルーオンが存在します。ホフスタッター以前は点粒子と考えられましたが電子散乱が有限の大きさを示しました。半径約0.8 fmは多くの理論モデルの基準値です。核子の性質は恒星内部や中性子星の理解にも影響します。
電荷分布
電荷分布は粒子内部で電気がどのように広がっているかを示す量です。電子散乱の角度情報からフーリエ逆変換で再構成できます。原子核や核子の電荷分布は強い相互作用の空間的特徴を検証する手段です。ホフスタッターのデータは陽子の密度がほぼ指数関数的に減衰することを示しました。後に格子QCD計算との比較で理論の重要なテストとなりました。
フォームファクター
フォームファクターは散乱振幅を内部構造の効果で修正するスケール依存関数です。観測断面積が点電荷の場合とどれだけ異なるかを示します。核子の電磁フォームファクターは電荷と磁気分布のフーリエ変換でQ²に依存します。ホフスタッターは広いQ²範囲で測定しdipole近似を提案しました。現在もニュートリノ散乱やパリティ非保存実験の重要な入力となっています。
線形加速器
線形加速器は電場を利用して粒子を直線的に加速する装置です。粒子は一列の空洞を通過するたびエネルギーを得ます。スタンフォード線形加速器はホフスタッター実験に不可欠でした。リニアックは医療用X線や自由電子レーザーにも利用されています。最新の超伝導技術で数十GeVまで加速する計画が進行中です。
核半径
核半径は原子核や核子の大きさを表す平均距離尺度です。電荷分布の二乗平均半径から定義されます。ホフスタッターの測定は陽子半径を0.8 fm程度と定め後の実験の基準となりました。核半径は核反応断面や核密度を決める重要パラメータです。中性子星や原子時計研究にも影響を与えます。