1961年ノーベル物理学賞(2)
受賞理由
ガンマ線の共鳴吸収についての研究および、それに関連する彼に因んで命名されたメスバウアー効果の発見
受賞者
西ドイツ
解説
原子の中心にある原子核は特定のエネルギーを吸ったり放出したりできます。普通はガンマ線を出すとき原子核が少し後ろへ跳ねるのでエネルギーがずれてしまいます。メスバウアーさんは固い結晶の中では原子核が周りと一緒に動くためほとんど跳ね返らずにガンマ線を出し入れできることを発見しました。この無反跳状態ではガンマ線の色がとても鋭くそろいます。鋭いガンマ線を物質に当てて吸収され方を調べるとその物質の性質を詳しく知ることができます。こうして生まれたメスバウアー効果は地球科学や化学分析など多くの研究に役立っています。
関連キーワード
メスバウアー効果
メスバウアー効果は固体中の原子核がほぼ反跳なしにガンマ線を放出・吸収する現象です。無反跳のため線幅が自然幅にまで狭まり極めて高いエネルギー分解能が得られます。1958年に鉄57で初めて観測され多くの核種に拡張されました。効果は結晶剛性と温度に強く依存し低温ほど感度が向上します。この現象により化学状態や磁気秩序を非破壊で詳細に調べることができます。
ガンマ線
ガンマ線は電磁波で最もエネルギーが高く波長はピコメートル以下です。原子核遷移によって生成されエネルギーはkeVからMeVの範囲になります。高エネルギーゆえに物質を透過し放射線治療や宇宙線観測に利用されます。メスバウアー分光では14.4 keVなど極めて狭いエネルギー幅の線が重要です。共鳴吸収を精密測定することで核準位の超微細相互作用を決定できます。
共鳴吸収
共鳴吸収は光子エネルギーが吸収体の準位差と一致すると吸収確率が急増する現象です。自然幅に制限された鋭い線を観測することでエネルギー差を高精度測定できます。メスバウアー効果では無反跳条件が線幅を極端に狭くします。ドップラー速度変調でエネルギー掃引し吸収スペクトルを得ます。同様の原理はレーザー分光や天体分光にも応用されています。
無反跳
無反跳とは光子を放出・吸収しても運動量保存による後退運動がほぼゼロになる状態です。結晶格子全体が運動量を分担するため個々の原子核にはフォノン励起が起こりません。エネルギー損失がなく共鳴条件が厳密に保たれます。無反跳分数fは温度と格子定数に依存し低温・高デバイ温度材料で最大となります。この機構がメスバウアー線を極めて鋭くしています。
超微細相互作用
超微細相互作用は原子核の磁気・電気多重極モーメントと電子雲や結晶電場との結合を指します。メスバウアー分光では吸収線の分裂やシフトとして現れます。磁気分裂は内部磁場を、四重極分裂は電場勾配の対称性を反映します。これらは化学結合状態やスピン秩序を知る手がかりとなります。高分解能測定は材料設計や第一原理計算の検証に重要です。
メスバウアー分光法
メスバウアー分光法は無反跳ガンマ線の共鳴吸収を利用して物質中の原子核をプローブとする技術です。速度制御された放射線源と検出器を用い吸収スペクトルから超微細パラメータを抽出します。マイクログラム量の試料で局所環境を調べられる点が特徴です。地質学や金属学、生体無機化学など多岐の分野で活用されています。火星探査機スピリットとオポチュニティにも搭載され鉱物組成分析に成功しました。